1932年11月ドイツ国会選挙

1932年11月6日ドイツ国会選挙：ナチス躍進の影と政治的混沌

1932年11月6日に行われたドイツ国会選挙は、ヴァイマル共和国の終焉を告げる重要な転換点となりました。ナチ党（NSDAP）は前回選挙での大躍進から勢いを維持するかに思われましたが、実際は大きな挫折を経験することになります。本稿では、選挙に至るまでの政治的背景、選挙戦における各勢力の動向、選挙結果とその後波及した影響について詳細に解説します。

混迷を極める政治情勢

1932年7月に行われた前回の総選挙でナチ党は第一党に躍進しましたが、ヒンデンブルク大統領とヒトラーの交渉は決裂。副首相ポストへのヒトラーの不満が、ナチ党内における大きな失望へと繋がりました。突撃隊（SA）を中心に、武装蜂起を求める声も高まっていました。

続く9月、国会では共産党がパーペン首相への不信任案を提出。ナチ党は当初、反共主義の立場からこれを拒否すべきだったものの、パーペン内閣打倒のため、共産党と共闘するという異例の事態を引き起こしました。パーペン首相は、不信任案可決を阻止しようとしましたが、圧倒的多数で可決されてしまいます。

この事態を受け、パーペンは国会を解散。11月6日に選挙が行われることとなりました。ヒトラーは国会解散を喜んだものの、ナチ党内部では共産党との共闘が選挙に悪影響を及ぼすとの懸念も存在していました。

疲弊した選挙戦

短期間での度重なる選挙により、国民全体に疲労感が漂っていました。特にナチ党は、8月の交渉決裂による幻滅感から大きな打撃を受け、党員離脱や資金不足に苦しんでいました。ゲッベルスの日記には、国民の疲労感と、ナチ党への失望が記されています。突撃隊の一部は武装蜂起を主張し、選挙運動を拒否する事態にまで発展しました。

選挙戦中には、ベルリンの交通労働者がナチ党と共産党の支援を受けてストライキを起こすという異例の事態も発生。これは、不況による賃金削減要求への反発が原因でした。このストライキは、ブルジョワ層にナチ党への不信感を募らせ、国家人民党への支持を拡大させる結果となりました。

選挙結果と政治的二極化

選挙の結果、ナチ党は第一党の座を維持したものの、前回選挙に比べて得票数を大幅に減らし、議席数も減少しました。得票減は東部ドイツの農業地域と工業地域で顕著であり、その多くは国家人民党やドイツ人民党へ流れたと推測されています。

一方、最大の勝者は共産党でした。得票率を大幅に増加させ、議席数を大きく伸ばしました。特にベルリンでは第一党に躍進しました。

ナチ党と共産党を合わせて議席数が過半数を超えたことで、これら両党を敵に回す政権運営は極めて困難となりました。現実的な連立は難しく、政治的混沌は深まりました。ナチ党の議席減少は、国民の政治的二極化を示しており、中産階級政党の衰退、失業者の増加、共産党の台頭を背景に、資本家層の一部がナチ党支持へと傾いていく状況を生み出しました。

各党の反応と政局の変遷

選挙結果を受け、社会民主党はヒトラー打倒に成功したと主張する一方、内部からは共産党の躍進への懸念の声も上がりました。共産党は「革命的飛躍」と選挙結果を評価していました。しかし、保守派からは、共産党の躍進がナチ党支持拡大に繋がるという見方も示されました。

パーペン首相は選挙結果を「国民的結集」への期待を示す一方、内相からは批判を受けました。シュライヒャー国防相は憲法修正作業の延期と各党との協議を提案しましたが、パーペン首相はヒトラーとの交渉で合意に至らず、シュライヒャーによって辞任に追い込まれました。その後、シュライヒャーが首相に就任しますが、ナチ党、社会民主党、共産党のいずれからも支持されず、短期間で退陣。最終的にヒトラーが首相に就任し、ナチス政権樹立へと繋がっていくのです。

結論

1932年11月6日のドイツ国会選挙は、ナチ党の勢力拡大を背景とした、ヴァイマル共和国の深刻な危機を示す結果となりました。選挙結果によって政治的二極化が進み、各党の思惑が複雑に絡み合う中、ヒトラーの首相就任という歴史的転換点へと進んでいったのです。この選挙は、ナチス政権樹立へと至る過程における重要な出来事として、歴史に刻まれています。

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