1962年通商拡大法

1962年通商拡大法とは

1962年通商拡大法は、1962年10月11日にアメリカ合衆国で制定された法律です。当時のジョン・F・ケネディ大統領が提唱したGATT（関税および貿易に関する一般協定）の第6回目の多角的貿易交渉、いわゆるケネディ・ラウンドを推進するために、大統領に交渉権限を授与することを目的としていました。

法律の背景と内容

この法律により、1962年7月1日から1967年6月30日までの期間において、以下の措置が可能となりました。

既存の関税を最大50%削減
既存の関税率が5%以下の場合は撤廃
アメリカと欧州経済共同体(EEC)で世界全体の80%以上を占める品目の関税撤廃

ただし、EECへのイギリス加盟がフランスのドゴール大統領の拒否により実現しなかったため、3番目の80%品目の関税撤廃権限は限定的なものとなりました。

第232条：安全保障条項

この法律には、議会の保護主義的な動きから、安全保障を理由に関税引き上げなどを認める第232条が含まれています。第232条は、特定の産品の輸入が米国の安全保障に影響を与えるかどうかを商務省が調査し、大統領に措置発動の要否を勧告するものです。

商務省は調査開始から270日以内に大統領へ報告書を提出、大統領は報告書受領後90日以内に結論を出す必要があります。

第232条の発動事例

制定から2001年までに26件の調査が行われましたが、大統領が国家安全保障の脅威を認めたのは9件にとどまり、実際に措置が発動されたのは5件でした。石油については、輸入規制が石油製品のコスト上昇を招き、長期的に米国の安全保障を阻害するという理由で見送られた事例もあります。また、2017年には鉄鋼とアルミニウムの調査が開始され、輸入制限が提言されました。

トランプ政権による発動

2018年3月、トランプ大統領は第232条に基づき、カナダ、メキシコを除く国からの鉄鋼製品に25%、アルミニウム製品に10%の関税引き上げを実施しました。その後、一部の国は適用除外となりました。

近年の動向

近年、この法律の第232条が再び注目を集めています。アメリカの通商政策に大きな影響を与える可能性があり、今後の動向が注視されています。

参考文献

植田大祐「⽶国の通商政策の動向」（PDF）『調査と情報』第1049号、国⽴国会図書館、2019. 3.18
『米国通商拡大法の解説』日本貿易会、1962年
経済同友会『通商拡大法と日本経済』至誠堂、1962年
池内正人『貿易革命 : 通商拡大法が世界を変える』東洋経済新報社、1963年

外部リンク

世界経済評論IMPACT No.1109 米国の自動車輸入：232条調査の疑問と問題点 滝井光夫
世界経済評論IMPACT No.1304 濫用される米国通商拡大法232条 滝井光夫
フラッシュ416 近づく自動車232条調査結果の発表 滝井光夫
Section 232 Investigations: Overview and Issues for Congress Congressional Research Service
1962年通商拡大法（原文）(関税と貿易資料室) (PDF)
* 1962年通商拡大法（日本語訳）(関税と貿易資料室) (PDF)

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