1973年アフガニスタンのクーデター

1973年アフガニスタンクーデター

1973年 7月17日、アフガニスタンでモハメド・ダウド・カーン陸軍大将（王子）が、従兄弟のモハメド・ザヒール・シャー国王に対してクーデターを決行しました。このクーデターにより、ダウド・カーンを首班とするアフガニスタン共和国が成立し、2世紀以上続いた王政の歴史に幕が下ろされました。

クーデターの経緯

当時、ザヒール・シャー国王はイタリアで療養中であり、その不在中にダウド・カーンは参謀長アブドゥル・カリム・ムスタグニ将軍と共にカブールで軍を指揮し、王政を転覆させました。このクーデターは、人民民主党（PDPA）のパルチャム派に属する陸軍将校や公務員によって支持されました。中でも空軍大佐アブドゥル・カディールの存在は重要でした。ザヒール・シャー国王は報復を避け、8月24日に正式に退位し、イタリアに亡命しました。

アメリカ国家安全保障会議のスタッフは、このクーデターを「よく計画され、迅速に実行された」と評しています。クーデターによる死者は、警察官7名と戦車隊長1名のみでした。

クーデターの背景

1933年からザヒール・シャーが国王として統治していましたが、1953年から1963年まで首相を務めていたダウド・カーンとの間には確執がありました。1964年の憲法改正で、バーラクザイ家出身者が政治家になれないようにしたことも、国王がダウド・カーンを遠ざける意図があったとする説があります。また、ダウド・カーンの親パシュトゥーニスタン政策がパキスタンとの対立を招いたことも、国王が懸念した要因の一つでした。

1964年の議会制民主主義導入後、5代の政府が改革に失敗し、国民の不満が高まっていました。特に、国会で可決された政党法などの関連法案を国王が公布しなかったことが、ダウド・カーンのクーデターを後押ししました。さらに、1971年から1972年にかけて発生した飢饉に対する政府の対応のまずさも、国民の不満を増大させました。

大学では、国会の非力さや指導力不足に不満を持つ人々が政治運動を活発化させ、国王との内紛もクーデターの一因となりました。一部の学者や歴史家は、ソ連がクーデターに関与した可能性を示唆していますが、確たる証拠は乏しいとされています。

クーデターの実行

ザヒール・シャー国王は、1973年6月25日に目の治療のためアフガニスタンを離れ、ロンドン経由でローマに滞在しました。その後、イタリアのイスキア島で療養していました。7月17日朝、ダウド・カーンは数百人の軍支持者と共にクーデターを起こし、抵抗を受けることなく数時間で王政を終わらせました。カーンは午前7時にラジオ・アフガニスタンで新共和国の成立を宣言しました。

クーデターの影響

ダウド・カーンは、ムサヒバン・バラクザイ朝の一員でありながら、王政を廃止し、自らが国家元首、政府首脳、外相、軍首脳を兼任する共和国を樹立しました。カブールの王宮は大統領公邸となり、ラジオ演説でクーデターを「国家的かつ進歩的な革命」と称し、旧体制を「腐敗し、女々しい」と批判しました。彼は「真の民主主義」の実現を誓い、アフガニスタンの中立政策を継続すると約束しました。

ソ連とインドは新政府を外交的に承認し、ダウド・カーンがマルクス主義と結びついていたことから、共産主義による乗っ取りではないかという見方も出ました。ダウド・カーンは、宗教や文化の伝統を尊重する姿勢を示しましたが、政権を握ると議会と司法を解体し、直接統治を行いました。彼は冷戦時代の超大国との関係を維持しつつ、経済体制に大きな変化をもたらしませんでした。

1977年1月の憲法制定議会選挙を経て、新憲法が承認され、大統領制一党独裁が確立されました。その後、ダウド・カーンはアメリカやパキスタンに接近し、ソ連やPDPAとの関係が悪化しました。最終的に、1978年のサウル革命で打倒され、政権獲得に貢献した文官や軍人も殺害されることとなりました。