1987年の日本の女性史

1987年の日本における女性史

1987年（昭和62年）は、前年に男女雇用機会均等法が施行されてから一年が経過し、その影響が様々な形で現れ始めた年です。女性の社会進出が進む一方で、新たな課題や社会構造との摩擦が顕在化しました。ここでは、この年に日本で起きた女性に関する主な出来事を時系列的に見ていきます。

年の初めには、精神科医の墨岡孝氏により、均等法下の女性たちが直面する「スーパーウーマン・シンドローム」が指摘されました。これは、仕事での責任が増すとともに、転勤や深夜労働、さらに家庭での家事負担も重くのしかかり、うつ状態に陥る女性が増加している現象を指します。理想と現実のギャップが、女性たちの心身に負担を強いている状況が明らかになりました。

社会問題としては、国内初の女性エイズ患者が確認され、3日後に亡くなるという出来事がありました。これを受けて東京都がエイズに関する電話相談サービスを開始したところ、初日から相談電話が殺到し、社会的な不安と関心の高さを物語りました。また、札幌市では、生活保護申請が受理されなかった母子家庭の母親が、幼い子供たちを残して衰弱死するという痛ましい事件も発生しました。貧困が女性、特にシングルマザーに与える深刻な影響が浮き彫りになりました。

女性に対する性的な暴力や嫌がらせに関連する出来事も注目されました。池袋では、買春行為中にサディスティックな行為を強要された女性が、抵抗する中で男性を死なせてしまう事件が発生し、東京地方裁判所は女性の行為を過剰防衛と認定し、有罪判決を下しました。一方、西船橋駅では、酔った男性に絡まれて転落死させてしまった女性に対し、千葉地方裁判所は正当防衛を認め無罪とする判決を出しました。特にこの西船橋の事件においては、被告女性を支援する女性団体が裁判過程で「セクシャル・ハラスメント」という言葉を積極的に用い、女性への性的な嫌がらせに対する社会的な認識を広めるきっかけを作りました。

税制改革も女性の働き方に影響を与えました。税制改正関連法の公布により、従来の優遇税制が見直される一方で「配偶者特別控除」が新設されました。これは専業主婦の内助の功を評価する目的で導入されたと説明されましたが、実際には、妻が働く場合に非課税限度額内でパートタイム勤務を選ぶ方が税制上有利になるという考え方を広め、女性のキャリア形成に制限を与える要因ともなりました。

市民による社会運動も活発に行われました。「ラッシュアワーはポルノアワー？」と題し、スポーツ新聞や雑誌のポルノ記事を批判する集会が開かれたほか、売上税反対の消費者・市民集会には多数の女性団体が参加しました。福岡市では、海岸に松を植える「夢松原」運動が女性たちの手で始まり、全国に広がりました。また、主婦たちが子育て経験を活かして子育て相談を行う「マーマネットワーク」が開業し、後に全国展開するなど、女性たちの互助や社会貢献の動きも見られました。労働団体や女性団体は、男女雇用機会均等法施行1周年を記念する集会や、労働基準法改正に反対する集いを開催するなど、女性の権利向上や働き方の改善を求める活動を続けました。

文化や流行の面では、文筆家の林真理子氏が歌手のアグネス・チャンの「子連れ出勤」を批判したことから、「アグネス論争」と呼ばれる働き方と子育ての両立に関する社会的な議論が巻き起こりました。文部省の調査では、民間カルチャーセンターの受講者の8割が女性であることが明らかになり、生涯学習における女性の積極性が示されました。また、俵万智氏の歌集『サラダ記念日』がベストセラーとなり、若い女性を中心に短歌ブームを巻き起こしました。

教育分野では、教育課程審議会が中学・高校の家庭科を男女ともに履修することを提言しました。これは、将来の家庭生活や育児への男女の共同責任を促す上で重要な一歩となりました。高等専門学校で学ぶ女子学生の数も、この年には昭和40年度の7倍以上に増加しており、技術分野への女性の進出が進んでいる様子がうかがえます。

その他、日本人女性として初めて芥川賞・直木賞の選考委員に大庭みな子氏らが就任したり、九州初の女性ソムリエが誕生したり、岡本綾子氏が日本人以外で初めて米女子プロゴルフツアーの賞金女王になるなど、専門分野で活躍する女性も現れました。警視庁では女性初の管理職となる女性警部が誕生し、後の全国初の女性警察署長の誕生につながりました。

1987年は、均等法施行を契機とした社会の変化の中で、女性たちが直面する課題や、それを乗り越え、あるいは新たな価値を創造しようとする様々な動きが顕著に見られた一年でした。

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