1990年の日本の女性史

1990年（平成2年）：女性を取り巻く社会の変化と課題

1990年の日本は、女性の社会参加が進む一方で、根強く残る性別による不均衡や差別、そして少子化という新たな課題が浮き彫りになった年でした。この一年には、司法による画期的な判断や、女性たちによる活発な社会運動、そして多様な統計データを通じて、当時の女性を取り巻く状況が映し出されています。

年明け早々、厚生省の私的な諮問機関は、出生数の減少傾向に対応するため、育児環境の整備などを提言する報告書を発表しました。この年、日本の合計特殊出生率は過去最低の1.57を記録し、「1.57ショック」として大きな社会的な関心を集めます。統計からは、女性の晩婚化に加え、子育てに伴う経済的・精神的負担、仕事との両立の難しさ、住宅事情などが少子化の要因として分析されました。また、平均初婚年齢は男女ともに過去最高を更新しており、ライフプランの変化がうかがえます。

雇用や労働環境における男女差別は、司法の場でその違法性が問われました。男女間で定年年齢に差を設ける企業規則の有効性が争われた裁判では、最高裁判所が段階的な格差解消案であっても男女差別であり違法であるとの判断を示しました。これは、女子職員が男子より早い定年を理由に解雇されたことに対して起こした訴訟に端を発するものです。さらに、勤続年数を基準とした昇格において、男子職員のみを対象とし、同じ業務内容を担当する女子職員を差別的に扱っていた企業に対し、東京地方裁判所はこれを違法とする判決を下しました。この訴訟は後に和解に至り、多くの女子職員が男性と同等の昇格基準で処遇されることとなりました。これらの判決は、労働現場における男女平等の実現に向けた重要な一歩と言えます。

性暴力や差別に対する女性たちの声も高まりました。2月には性暴力に反対する大規模なアクションが開催され、性暴力と闘う女性たちのネットワークが活動を展開しました。また、東京都の青年の家で合宿中の同性愛グループが差別される事件が発生しています。さらに、行動する女たちの会は、出席簿で男子が先に記載される慣習に疑問を投げかけるパンフレットを発表するなど、日常生活に潜む性差別に対する問題提起も行われました。

国際的な交流や課題への取り組みも活発化しました。日本とドイツの間で女性に関するシンポジウムが複数開催され、母性や「明日をひらく女性」について議論が交わされました。アジアの女性たちの会は、開発・援助と女性をテーマにしたシンポジウムを開催しました。特に重要な動きとしては、大韓民国の盧泰愚大統領が訪日時に国会で慰安婦問題の調査を要求したこと、そして後に韓国の女性団体が日本政府に対し謝罪と調査を求める公開状を送付し、韓国挺身隊問題協議会が結成されたことが挙げられます。これは、過去の戦争における女性への暴力という重い課題が、日韓関係の中で改めて認識されるきっかけとなりました。

多様な社会問題や統計データも、女性を取り巻く状況を示唆しています。東京都への女性からの労働相談は増加の一途をたどり、特にセクシュアル・ハラスメントに関する相談が目立っていました。企業を対象とした調査では、女性管理職が非常に少ない現状や、セクハラ体験者の割合が高いことが明らかになりました。墓地に関する世論調査では、夫と同じ墓に入りたくないと考える妻が増えているという、家族や伝統的な価値観の変化も垣間見えました。世界の国会議員に占める女性の割合において、日本が国際的に見て非常に低い位置にあることも指摘されました。一方で、青年海外協力隊への女性の応募者が男性を上回るなど、国内外での活躍を目指す女性が増加している傾向も見られました。

その他にも、外国人売春婦の摘発に際して法務大臣が人種差別的・女性差別的な発言を行い批判を浴びたこと、JR東日本が一部の寝台特急に女性専用車両を導入したこと、代理母出産による日本人の子どもが誕生したことが判明したこと、そして女性向け夕刊紙が創刊されるも短命に終わったことなど、1990年には女性に関する様々な出来事が起こりました。また、足立区では「男性改造講座」が開講されるなど、男性側の意識や行動変容を促す試みも生まれています。

1990年は、少子化問題への対応、労働における不平等の是正、過去の戦争がもたらした女性への暴力への向き合い方など、女性を取り巻く多様な課題が顕在化し、社会全体でその解決に向けた議論や行動が求められた一年でした。司法判断や市民運動、そして様々な統計データは、当時の日本の女性たちが直面していた現実と、より良い社会を求める声の広がりを示しています。

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