2010年上海マンション火災

2010年上海マンション火災

2010年11月15日午後、中華人民共和国の上海市静安区で、28階建ての高層住宅が炎上し、多数の死傷者を出した悲劇的な火災です。この出来事は、中国国内では「上海11·15特別重大火災」または単に「上海公寓火災」として記憶されています。

火災の発生と拡大

火災は現地時間午後2時15分頃に発生しました。現場となったのは、上海市静安区膠州路728弄にある、1997年12月に竣工した28階建ての建物です。主に教員向けの住宅として利用されており、1階は商業スペース、2階から28階までが住宅で、156戸に440人以上が暮らしていました。

出火原因は、火災発生当時行われていた建物の外壁改修工事に関連するものとされています。10階部分での溶接作業中に飛び散った火花が、建物の周囲を覆っていた竹製の足場や、それに張り巡らされていた可燃性のナイロンネットに引火したとみられています。炎は可燃物を伝って瞬く間に上下方向に広がり、さらに強風にあおられたことで、短時間のうちに建物の全体を包み込むように燃え上がりました。

消火活動の困難

火災発生後、約70台の消防車が出動しましたが、消火活動は極めて困難を極めました。高層階への放水が可能な90メートル級のはしご車は限られており、多くの消防車が保有する50メートルから60メートル級のはしご車では、燃え盛る高層階に有効な放水が届きませんでした。結果として、鎮火までに約5時間を要しました。当時の報道では、当局の初動対応の遅れや、高層火災に対応できる消防設備の不足が指摘されました。屋上に取り残された住民の救出には、ヘリコプターも投入されました。

被害と犠牲者

この大規模火災により、58人が命を落とし、70人を超える人々が入院または治療を必要とする負傷を負いました（火災発生月末時点での発表）。さらに、56人が消息不明であるとも報じられました。

犠牲者の多くは引退した高齢の教師であり、救助活動は難航しました。また、中国の多くのマンションに見られる、居住部屋の玄関外側に設置された「防盗門」と呼ばれる鉄格子が、避難経路を妨げ、救出作業を困難にした可能性も指摘されています。

犠牲者の中には日本人男性1名が含まれていました。中国人妻とともに、妻の父親が住む同高層住宅を訪れていた際に火災に巻き込まれたとされ、その後、上海市公安局によるDNA型鑑定の結果、67歳の日本人男性が犠牲者であることが確認されました。

報道規制と市民の反応

火災発生後、中国当局による報道規制が行われたと報じられています。11月20日には、国内メディアに対し、新華社以外の情報の引用を禁止し、既に掲載された記事の削除を求める指示があったと香港メディアが伝えました。遺族への取材を試みた一部の中国人記者は、理由なく身柄を拘束され、事件に関する否定的な報道を控えるよう約束させられたとも報じられています。

一方で、火災発生から7日目に当たる11月21日には、多数の市民が火災現場に献花に訪れました。この日は中国の慣習で、死者の魂が戻るとされる「頭七」に当たる日であり、週末でもあったため、上海市民が現場に詰めかけ、昌平路に長い列を作りました。当局は抗議集会となることを警戒し、花を持たない市民の接近を制限しましたが、献花に訪れた人数は1万人から10万人に上るとも言われています。この自然発生的な慰霊活動を、市民精神の覚醒として報じるメディアもありました。

その後の影響

この火災は、上海市における火災予防への意識を高める契機となりました。火の扱いに対する警戒が強化され、その後の年末にかけて、予定されていた花火行事が中止されたり、花火を打ち上げるエリアが限定されるといった措置が取られるケースが見られました。

この上海マンション火災は、高層建築における工事中の安全管理、消防体制、そして非常時の避難経路の確保といった課題を浮き彫りにしました。他の高層ビル火災（例：2009年の中央電視台電視文化センター火災、2017年のグレンフェル・タワー火災など）と共に、都市部の高密度化が進む現代社会における防火対策の重要性を再認識させる出来事となりました。

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