2020 BE102

「2020 BE102」は、太陽系の広大な外縁部に広がる散乱円盤と呼ばれる領域に存在する天体です。この天体は、散乱円盤天体（Scattered Disc Object, SDO）に分類されており、そのサイズは比較的小さく、推定される直径は約350キロメートル（約220マイル）程度とされています。これは、太陽系の惑星軌道、特に海王星の軌道よりもはるかに外側、冥王星の軌道さえも超える遠方に位置しています。

この遠方の天体の発見は、2020年1月24日に遡ります。発見の栄誉は、アメリカの天文学者チーム、具体的にはスコット・S・シェパード氏、デビッド・J・ソーレン氏、チャドウィック・トルヒージョ氏らの研究グループによるものです。彼らは、ハワイ島マウナケア山頂にある国立天文台ハワイ観測所の口径8.2メートルを誇るすばる望遠鏡を使用して、この天体を捉えることに成功しました。観測データの詳細な分析が進められた結果、その存在は2021年5月31日に正式に公表される運びとなりました。

初めて観測された時点において、2020 BE102は太陽からおよそ111.2天文単位（au）の距離に位置していました。ここでいう天文単位（au）とは、地球から太陽までの平均距離を基準とする単位で、1天文単位は約1億5千万キロメートルに相当します。111.2天文単位という距離は、太陽から約167億キロメートルという、想像を絶するほど遠い宇宙空間にこの天体が存在していたことを示しています。

この極めて太陽から離れた位置は、発見当時、2020 BE102を太陽系内で知られている天体の中でも特に遠いものとして位置づけました。実際、2022年5月時点の観測データに基づいて、2020 BE102は当時確認されていた太陽系天体の中で、太陽からの距離が3番目に遠い天体とされています。これよりさらに遠方に位置することが知られている既知の天体としては、2018 VG18（発見当時約124au）や、2018 AG37（発見当時約132au）などが挙げられます。これらの天体は、太陽系外縁部の最果てに存在し、オールトの雲の内縁部や、未確認の惑星「プラネット・ナイン」の探索領域に関連して注目されています。2020 BE102の発見は、こうした遠方天体群に新たな仲間を加えるものであり、太陽系外縁部の構造や形成過程を理解するための貴重な手がかりを提供しました。

2020 BE102が属する散乱円盤天体は、太陽系の形成初期に、巨大惑星、特に海王星の重力によってエッジワース・カイパーベルトなどから現在の軌道へと「散乱」されたと考えられている天体群です。これらの天体は一般的に、離心率が非常に大きい（細長い楕円軌道を描く）か、あるいは軌道傾斜角が大きい（黄道面から大きく傾いた軌道を持つ）といった特徴的な軌道を持っています。2020 BE102も、その遠く、そして恐らくは不安定な軌道特性からこのカテゴリーに分類されています。

このような太陽系最外縁部にある小型天体の発見は、現代の高度な観測技術と、根気強い探査活動の成果です。すばる望遠鏡のような大口径望遠鏡と、広大な天域を高感度で観測できる装置、そして継続的なサーベイ観測計画が不可欠となります。2020 BE102のような天体の観測データは、太陽系が誕生した約46億年前に物質がどのように分布し、どのように惑星が形成され、そしてどのように現在の太陽系構造が構築されたのかという、太陽系の初期進化に関する謎を解き明かす鍵となり得ます。また、太陽系の端に存在するこれらの天体の特異な軌道は、未発見の巨大天体（例えば、プラネット・ナインのような仮説上の惑星）の存在を示唆している可能性も指摘されており、今後の詳細な観測や研究によって、さらに新たな発見がもたらされることが期待されています。

もう一度検索