2022年ロシア債務不履行

ロシア外貨建て債務不履行の経緯と背景

2022年6月27日、ロシアは外貨建て債務の一部について、事実上のデフォルト（債務不履行）に陥りました。これは、1918年以来の出来事であり、国際的な金融市場に大きな衝撃を与えました。ただし、このデフォルトは、ロシアの支払い能力の欠如によるものではなく、主に制裁による技術的な問題が原因であったとされています。

デフォルトに至る経緯

2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、米国はロシアを世界経済から切り離すための制裁措置を発動しました。これにより、ロシア中央銀行が米国内に保有する資産が凍結され、ロシア直接投資基金にも制裁が課せられました。ロシアのアントン・シルアノフ財務相は、ロシアの中央銀行が保有する外貨準備と金のうち、約半分に相当する3千億ドルが凍結されたと述べています。

当初、米国はロシアが米国内の資金を債務支払いに再利用することを許可していました。しかし、4月4日には、ロシアが債務返済のために米国の銀行に保管されている資金を引き出すことを禁止しました。これにより、ロシアは債務の米ドル建て支払いが困難になり、4月4日に満期を迎えたドル建て債券の支払いを怠りました。

4月8日、米格付け会社S&Pグローバルは、ロシアがドル建て国債の償還と利払いをルーブルで行ったことをルール違反と判断し、ロシアの外貨建て国債の格付けを「SD（選択的デフォルト）」に引き下げました。これは、借り手がすべての債務ではなく、特定の債務を履行しない場合に起こるもので、事実上デフォルトとみなされました。ロシア政府には、契約上の義務を果たすための30日間の猶予期間が設けられましたが、S&Pグローバルは「投資家が受け取ったルーブルを当初の支払額に相当するドルに両替することは不可能」と判断し、制裁がさらに拡大する見通しから「海外の債権保有者に対する支払い条件を遵守する意思と技術的な能力が妨げられる」可能性が高いとしました。

以前、ロシアは3月16日に米財務省外国資産管理局が発行した一般許可に基づき、5月25日まで有効な新しい支払い方法で支払いを行い、テクニカルデフォルトを回避していました。また、ロシアは債務不履行に追い込まれた場合、訴訟を起こす可能性や、2023年にデジタルルーブルを使った実際の取引を行う計画も示唆していました。

4月29日、ロシア財務省は、ドル建て債の支払いをドルで行ったと発表しました。これは、米国の経済制裁を受けていないロシアの住宅金融機関から、米BNYメロンを経て米シティバンクのロンドン支店に送られました。米国と英国の規制当局も5月2日に支払いを承認しました。

支払い遅延と猶予期間

5月27日、ロシア連邦証券保管振替機関（NSD）は、外貨建ての2026年および36年債償還の利払いについて、NSDの口座から引き落とされ預金者の口座に支払われたと発表しました。しかし、実際には、ユーロ建てとドル建ての利払い約1億ドル相当が投資家の口座に入金されず、30日間の猶予期間が開始されました。

ロシアは、支払期日の1週間前に利払い約1億ドルをNSDに送金した際、全ての義務を果たしたと主張しました。しかし、資金はNSDから国際証券集中保管機関（ICSD）のユーロクリアバンクに移されたものの、コンプライアンス上の理由でそこから動いていませんでした。債権者が27日までに受け取るはずだった利払いは、26年債償還が7125万ドル、36年債償還が2650万ユーロに上りました。

猶予期間最終日の翌日、ムーディーズは「デフォルトに該当する」との見解を表明しました。

クレジットデリバティブ決定委員会の判断

世界の主要金融機関で構成するクレジットデリバティブ決定委員会は、6月1日に、ロシアのドル建て国債の利払いに不履行が生じたとの判断を示しました。30日間の猶予期間中に完了した元利金の支払いを巡り、当初の期日から遅れた分の利息（およそ190万ドル）が上乗せされなかったのは不払いにあたるとの投資家の主張を認め、発行時の約束通りに利払いなどが実行されないクレジットイベント（信用事由）にあたるとの判断を示しました。

この決定により、CDS（クレジット・デフォルト・スワップ）契約上のデフォルトが発生しました。アルジェブリスのポートフォリオマネジャー、ガブリエレ・フォアは「かなり少額で、デフォルトの定義は非常に技術的なものだが、5月25日から海外投資家が資金を受け取ることができていないようであれば、デフォルトはすぐにもっと重大なものになるだろう」と指摘しました。

ロシアの反応

ロシアのアントン・シルアノフ財務大臣は、ロシアには債務返済のためのドルとユーロの資金が豊富にあるため、デフォルトの状況を「茶番」として一蹴しました。AP通信は、ロシアの対外債務の正式なデフォルトが確認されるには時間がかかると報じました。金融アナリストらは、ロシアには債務を履行するための多額の現金があり、米国に比べて対外債務が非常に少ないため、状況は独特であると述べています。

ムーディーズのデフォルト認定

最終的に、2022年6月27日、格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、5月27日が支払期日だった2本のロシアの外貨建て国債について「デフォルト（債務不履行）に該当する」との見解を表明しました。発行時の条件に基づく利払いが30日の猶予期間内に実行されなかったことは、同社の格付け定義上、不履行にあたると説明しました。

まとめ

ロシアの外貨建て債務不履行は、制裁措置によって引き起こされた技術的なデフォルトであり、ロシア自身の支払い能力の問題ではなかったと考えられています。しかし、このデフォルトは国際的な金融市場に大きな影響を与え、今後のロシア経済に不確実性をもたらす可能性も指摘されています。

もう一度検索