2022年-2023年ロシア・欧州連合ガス紛争

ロシア・EUガス紛争の詳細解説

2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻を契機に、ロシアとEUの間でガスを巡る紛争が再燃しました。この紛争は、エネルギー供給における地政学的な駆け引きを浮き彫りにし、国際関係に大きな影響を与えています。

紛争の背景

2020年、EUは5120億立方メートルの天然ガスを消費し、そのうち36%（1850億立方メートル）をロシアからの輸入に依存していました。2022年初頭には、ロシアはEUの天然ガス輸入量の45%を供給し、1日あたり9億ドルを稼いでいました。しかし、ウクライナ侵攻を機に、EUはロシアへの制裁を強化し、ロシア産ガスへの依存度を下げるための動きを加速させました。

ロシアのルーブル支払い要求

2022年3月、ロシアのプーチン大統領は「非友好国」に対し、天然ガスの支払いをルーブル建てで行うよう要求しました。これは、制裁によって金融市場からほぼ切り離されていたロシア中央銀行を世界の金融システムに復帰させ、制裁を回避する狙いがあると見られています。EU諸国は、この要求を拒否し、ガスプロムとの間で支払いを巡る対立が激化しました。

ガス供給の中断

ルーブル建ての支払い要求を拒否したEU諸国に対し、ロシアはガス供給を相次いで中断しました。2022年4月には、ポーランドとブルガリアへのガス輸送が停止され、5月にはウクライナとフィンランドへの供給も停止しました。さらに、6月にはノルドストリーム1パイプラインの供給量を削減し、7月にはメンテナンスを理由にパイプラインが停止されました。9月にはノルドストリーム1と2のパイプラインが爆破され、事態はさらに深刻化しました。

EUの対応

EUはロシアへのエネルギー依存を減らすため、代替供給源の確保に動きました。ノルウェーやペルーからのLNG輸入を増やし、カタールとの間でLNG供給に関する合意を締結しました。また、EUは2022年12月、ガス価格の上限を1MWhあたり180ユーロに設定しました。

紛争の影響

この紛争は、EUのエネルギー市場に大きな混乱をもたらし、ガス価格が高騰しました。しかし、EUは代替供給源の確保とエネルギー消費の削減により、ガス不足を回避することに成功しました。紛争は、EUとロシアの経済関係を大きく変化させ、EUはロシア産ガスへの依存から脱却する動きを加速させています。

代替供給とエネルギーハブ構想

EUは、LNG輸入の拡大や他の供給国との協力強化により、ロシア産ガスへの依存を減らしています。また、トルコがヨーロッパへのエネルギーハブとなる構想も浮上しており、エネルギー供給の多角化が進んでいます。特に、トルコはロシア、イラン、アゼルバイジャンからのガスを蓄積し、それをトルコ産として再ラベル付けし、ヨーロッパへ輸出することが検討されています。

現在の状況と今後の展望

2023年7月現在、ロシアとヨーロッパを結ぶ主要なパイプラインのうち、稼働しているのはわずか2本です。ウクライナの輸送ルートも2024年末には終了する予定で、ロシアのガス供給はさらに減少することが予想されます。しかし、EUは代替供給源の確保と再生可能エネルギーへの移行を加速させており、ロシアへのエネルギー依存から脱却する道筋が見え始めています。

契約状況

EU諸国とガスプロムとのガス供給契約は、終了、法的審査中、アクティブの3つのカテゴリーに分けることができます。多くの契約が履行されていないか、停止されており、訴訟や仲裁手続きが進行中です。これらの契約状況は、EUとロシアのエネルギー関係が大きく変化していることを示しています。

紛争の全体的な影響

この紛争は、ロシアが政治的影響力と巨額の税収を失う一方で、EUはエネルギー依存の解消と再生可能エネルギーへの移行を加速させるという長期的な影響をもたらすでしょう。EUは新たな供給者を見つけることに成功し、世界のガス価格は許容可能な水準まで低下しました。

注記

この分析は、2023年11月までの情報に基づいています。

この紛争は、単なるエネルギー供給の問題に留まらず、国際政治、経済、そしてエネルギー政策のあり方そのものに深い影響を与える出来事であり、今後の動向を注視していく必要があります。

もう一度検索