2023年オーストラリア国民投票

2023年オーストラリア国民投票：先住民の声を巡る憲法改正、否決の結末

2023年10月14日、オーストラリアで重要な国民投票が行われました。議題は、アボリジニとトレス海峡諸島民（以下、先住民）を憲法で認め、彼らの代表機関を設置することの是非。この代表機関は「ボイス（The Voice）」と呼ばれ、議会や政府に対して先住民の意見を表明する役割を担うはずでした。しかし、投票の結果は反対多数。憲法改正は否決され、設置が見込まれていた「ボイス」も実現しないことになりました。この国民投票は、1999年以来、約四半世紀ぶりとなるもので、国内外から大きな注目を集めました。

国民投票に至るまでの経緯

今回の国民投票は、長年にわたる議論と運動の末に実現しました。1967年、オーストラリアでは先住民に関する憲法改正が国民投票で承認され、先住民も国勢調査の対象となり、連邦政府が彼らのための法律を制定する責任を負うことになりました。しかし、先住民を憲法で明確に位置づけるという課題は、その後も残されました。

2017年、先住民の指導者たちは、ウルル（エアーズロック）に集まり、憲法における先住民の地位について議論しました。その結果、「心からのウルル声明」を発表し、先住民の全国代表機関「先住民の声（First Nations Voice）」の設置を求めました。これを受け、国民投票評議会は政府に対し、先住民代表機関「議会への声」を設立するための国民投票実施を勧告しました。

その後、紆余曲折を経て、2023年、アルバニージー政権は、先住民による諮問機関「議会への声」の設置を問う憲法改正の国民投票を実施することを決定しました。

国民投票の概要

国民投票では、以下の質問が有権者に投げかけられました。

>法律案: アボリジニおよびトレス海峡諸島民の「ボイス」を設置することにより、「最初のオーストラリア人」であることを承認するために憲法を改正する。この改正案に賛成ですか？

18歳以上のオーストラリア国民は投票権を有し、投票は義務とされました。投票方法は、投票所での一般投票、期日前投票、郵便投票の3種類。海外在住者や南極滞在者向けの投票方法も用意されました。

憲法改正が承認されるためには、国民投票で賛成が全国で過半数となり、かつ6州中4州以上で過半数となる必要がありました。

改正案では、憲法に先住民が「最初のオーストラリア人」であることを明記し、先住民問題に関する意見を議会と連邦政府に反映させる機関「ボイス」を新設することが提案されていました。「ボイス」は、先住民に関連する問題について、議会や政府に意見を表明する役割を担いますが、法案などへの拒否権は持ちません。

各党の意見と世論調査

国民投票を主導した労働党に対し、自由党は「ボイス」の設置と憲法改正案に反対しました。しかし、憲法改正発議については、国民が意思を表明する機会は確保すべきとの理由から、党議拘束をかけませんでした。少数政党では、緑の党は賛成、中道右派の国民党は反対でした。

世論調査では、当初は賛成が反対を上回っていましたが、徐々に差が縮まり、最終的には反対が多数を占めるようになりました。賛成派、反対派双方による議論や宣伝が激化する中で、アルバニージー政権の支持率も低下しました。

先住民の賛否

元々、先住民からの嘆願書を受けて始まった憲法改正でしたが、最終的には先住民の間でも意見が分かれることになりました。非先住民との格差是正を期待する賛成が主流でしたが、非先住民と敵対すべきではないとする意見や、改憲案には実効性がないとする意見もありました。

投票結果と今後の展望

2023年10月14日の投票の結果、6州全てで反対多数となり、憲法改正案は否決されました。アルバニージー首相は、この結果を受け入れ、先住民を支援するための代替策を検討する方針を表明しました。

今回の国民投票の結果は、オーストラリア社会における先住民問題の根深さを改めて浮き彫りにしました。憲法改正は否決されましたが、先住民の権利擁護に向けた取り組みは、今後も続いていくことでしょう。

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