2025年の監察官解任

2025年トランプ大統領による監察官大量解雇事件

2025年1月24日、ドナルド・トランプ大統領（当時）は、連邦政府機関で活動する複数の監察官（Inspector General: IG）を即時解雇すると発表し、大きな波紋を呼んだ。解雇された監察官の人数は少なくとも17人に上るとされ、その大規模さから「金曜日の夜のクーデター」「真夜中の粛清」などと批判的な言葉で揶揄された。

背景：監察官（IG）の役割

監察官は、各連邦政府機関に設置された独立性の高い組織であり、不正行為、権限の濫用、税金の無駄遣いなどを監視・調査する役割を担っている。政府の透明性と説明責任を維持する上で、非常に重要な役割を果たしていると言えるだろう。

監察官は、政権交代のたびに任命されるわけではなく、多くの場合、前政権から職務を引き継ぐ。また、連邦法によってその地位は保護されており、大統領が監察官を解任する場合、解任の30日前までに理由を添えて議会に通知することが義務付けられている。

解雇の経緯

2025年1月24日、トランプ大統領は、国防総省、国務省、住宅都市開発省、退役軍人省、エネルギー省、運輸省など、複数の省庁に所属する監察官、およそ17名を即時解雇すると発表した。報道によると、解雇された監察官たちは、電子メールで解雇を通告され、その理由として「優先事項の変更」が挙げられたという。

解雇された主な監察官

フィリス・フォン（農務省監察官）
ハンニバル・ウェア（誠実性と効率性に関する監察官総長会議（CIGIE）議長、中小企業庁の監察官を兼務）
マーク・グリーンブラット（内務省監察官）
ライ・オリヴァー・デイヴィス
ロバート・ストーチ（国防総省監察官）
ショーン・オドネル（環境保護庁監察官）
カーデル・リチャードソン・シニア（国務省監察官）
クリスティ・グリム（保健福祉省（HHS）監察官）
マイケル・ミザール（退役軍人省監察官）
ポール・K・マーティン（USAID監察官、2025年2月11日に解雇）

一方で、司法省監察総監室のマイケル・E・ホロウィッツ監察官（前CIGIE委員長）は解雇を免れたと報じられている。

合法性と批判

連邦法では、監察官の解任に際し、30日前までに議会への通知が義務付けられている。しかし、今回の解雇では、この手続きが守られていないとして、法的手続きの軽視が批判されている。専門家からは、今回の解任が1978年の監察官法に違反するのではないかという懸念も表明された。特に、中小企業庁のハンニバル・ウェア監察官は、大統領人事局に書簡を送り、決定の再考と法的手続きの遵守を求めた。

関係者の反応

民主党

下院民主党は、トランプ大統領宛の書簡で、この解雇を「透明性と説明責任に対する攻撃」と非難した。監視・政府改革委員会の委員であるジェリー・コノリー下院議員は、「金曜日の夜のクーデター」と揶揄し、政府機関に対する国民の信頼を損なう行為だと強く批判した。アンジー・クレイグ下院議員も同様の懸念を示し、特に農務省監察官の解任が、農民支援や栄養補助プログラムの公正性を脅かすと指摘した。

共和党

共和党からも懸念の声が上がった。チャック・グラスリー上院議員やスーザン・コリンズ上院議員らは、今回の解雇に疑問を呈した。コリンズ議員は、「不正・濫用・浪費を根絶することを使命とする人物をなぜ解雇するのか理解できない」と述べ、その正当性に疑義を示した。

その後

2025年2月13日、ニューヨーク・タイムズは、解雇された農務省監察官のフィリス・フォンが、イーロン・マスク氏の脳インプラント企業Neuralinkに対する調査を行っていたことを報じた。この報道は、解雇の背景に政治的な意図があった可能性を示唆するものとして、さらなる議論を呼んだ。

脚注

監察官制度は、政府の透明性と説明責任を確保するための重要な仕組みである。
監察官の独立性を保護することは、健全な民主主義を維持するために不可欠である。

関連項目

2020年の監察官解任
2025年アメリカ合衆国司法省の辞任
* 2025年のアメリカ合衆国連邦政府職員の大量解雇

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