23歳

KAN 『23歳』

『23歳』（にじゅうさんさい）は、日本のシンガーソングライター、KANによって制作された17作目のオリジナルアルバムです。2020年11月25日、アップフロントワークス内のレーベルであるzetimaよりリリースされました。本作は、彼にとって生前最後に発表されたオリジナルアルバムであり、事実上の遺作となりました。前作『6×9=53』以来、約5年ぶりとなるオリジナル作品として、発表当時から多くの注目を集めました。

仕様と構成

このアルバムは、CDとDVDからなる2枚組パッケージとして提供されました。CDには、後述するコンセプトに基づいた全10曲が収められています。一方、付属のDVDには、本作の制作過程に密着したドキュメンタリー映像が収録されています。このドキュメンタリーのタイトルは『58歳』と名付けられており、アルバムタイトルである「23歳」とは異なる、リリース当時のKANの年齢（58歳）を冠しています。映像を通じて、楽曲制作に取り組む彼の姿や、音楽に対する真摯な姿勢、そしてユーモアを交えた人柄の一端を垣間見ることができ、アルバムの内容をより深く理解するための補助的な役割を果たしています。

フィジカルメディアであるCDの発売と同時に、各種音楽配信サービスにおけるダウンロード販売も開始されました。これにより、リスナーは自身の好みに合わせて、CDまたはデジタルの形式で作品を手に入れることが可能となりました。

アルバムのコンセプト

『23歳』の大きな特徴であり、本作の核となるコンセプトは、「10曲10ジャンルのノン・フェイドアウト・アルバム」と明確に打ち出されています。これは、収録された10曲全てがそれぞれ異なる音楽ジャンルで制作されており、かつ楽曲のエンディング処理として音量を徐々に小さくしていく一般的な手法である「フェイドアウト」を用いず、各曲が明確な構成を持って完結する「ノン・フェイドアウト」で統一されていることを意味します。ジャズ、ロック、ポップス、ボサノヴァ、エレクトロニカなど、多岐にわたるジャンルを横断することで、KANの持つ音楽的な引き出しの豊富さと多様性が最大限に発揮されています。このコンセプトは、アルバム全体を通して聴き飽きさせない構成を目指し、それぞれの楽曲が独立した存在感を放ちながらも、アルバムという一つのまとまりの中で有機的に機能することを意図しています。

特筆すべき楽曲「エキストラ」

本作に収録された楽曲の中でも、「エキストラ」は特に注目を集めた一曲です。この楽曲のためには、特別にリリック・ビデオが制作されました。リリック・ビデオは、楽曲の歌詞を映像と共に表示する形式で、KANの公式YouTubeチャンネル上で公開されています。映像は楽曲の世界観を視覚的に表現しており、歌詞の内容をより深く伝え、多くのリスナーにその存在を印象付けました。

「エキストラ」のカバー

「エキストラ」は、後年、ハロー!プロジェクトのアイドルグループ、モーニング娘。の元メンバーである譜久村聖によってカバーされました。彼女によるカバーバージョンは、2021年6月21日に配信限定シングルとしてリリースされました。さらにその後、2025年4月23日に発売された彼女の1stメジャーシングル「ロングラブレター/アニバーサリーはいらない」の初回生産限定盤SPバージョンに、アディショナルトラックとして改めて収録されています。これは、「エキストラ」という楽曲が持つ普遍的な魅力と、KANの音楽が世代やジャンルを超えて影響を与え続けていることの証と言えるでしょう。

まとめ

アルバム『23歳』は、約5年ぶりのオリジナルアルバムとして、そしてKANの遺作として、彼のキャリアにおける重要な位置を占める作品です。多岐にわたる音楽ジャンルへの挑戦を詰め込んだコンセプトアルバムであり、付属のドキュメンタリーDVDは、晩年のKANの音楽制作に対する情熱や姿勢を伝える貴重な記録となっています。発表から時が経ってもなお、多くの音楽ファンに愛され、KANの遺した豊かな音楽遺産の一部として聴き継がれています。

もう一度検索