3台のピアノのための協奏曲 (モーツァルト)

3台のピアノのための協奏曲 ヘ長調 K. 242 『ロドロン』

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが1776年に手掛けたこの作品は、3台のピアノを独奏楽器として前面に据えた珍しい編成の協奏曲です。ケッヘル番号では242番が付され、通し番号で『ピアノ協奏曲第7番』とも呼ばれています。さらに、作曲を依頼したザルツブルクの名門貴族の名を取って、一般には『ロドロン』（あるいは『ロードゥローン』）の愛称で広く親しまれています。

作曲の背景

本作は1776年2月、モーツァルトが活動の本拠地としていたザルツブルクで作曲されました。この協奏曲は、ザルツブルクの有力な貴族であるロドロン家の女性たちのために特別に書かれたものです。具体的には、伯爵夫人アントニーナと、そのお嬢様であるアロイジアとジュゼッパが演奏することを想定されていました。独奏ピアノの各パートは、彼女たちのそれぞれの演奏技量に応じて配慮されています。

パートの特性と献辞

独奏ピアノのパートは、演奏者の技量に合わせて難易度が分けられています。第1および第2ピアノのパートは、伯爵夫人アントニーナか、あるいは令嬢アロイジアが演奏することを想定されており、ある程度の技巧が要求されるように書かれています。一方、ジュゼッパ令嬢のために書かれた第3ピアノのパートは、他のパートに比べてより簡潔で、比較的容易に演奏できるよう作曲されています。これは、ジュゼッパ令嬢の演奏能力に合わせた配慮であったと考えられています。

この作品の最初の版には、ロドロン家の女性たちへの献辞が添えられています。そこには、「貴婦人であるロドロン伯爵夫人、旧姓ダルコ伯爵夫人とその令嬢たち、アロイジアとジュゼッパに。彼女たちの最も献身的な召使いヴォルフガング・モーツァルト。」と記されており、モーツァルトがこの作品を彼女たちに捧げたことが明確に示されています。

関連する演奏記録

モーツァルトは、1777年に母親のアンナ・マリアとともに、就職活動のためにパリへ向かう旅に出ました。その道中に立ち寄ったアウクスブルクで、彼は当時革新的だったヨハン・アンドレアス・シュタイン製作のフォルテピアノと出会い、その音色や機構に感銘を受けました。同年10月22日、モーツァルトはアウクスブルクのフッガー伯爵家の広間で催された演奏会において、この時完成したばかりのシュタイン製のフォルテピアノを用いて本作を演奏しました。この演奏会では、第1ピアノをオルガニストのヨハン・ミヒャエル・デムラーが、第2ピアノをモーツァルト自身が、そして第3ピアノをフォルテピアノ製作者であるシュタイン本人が担当したと記録されています。

2台ピアノ版の存在

モーツァルト自身は、この3台のピアノのための協奏曲を、後に2台のピアノと管弦楽のために編曲しています。こちらの編曲版は1779年頃に成立したと推定されています。近年では、この2台ピアノと管弦楽のための版で演奏される機会が多くなってきています。

楽器編成

この協奏曲の楽器編成は以下の通りです。

独奏：ピアノ3台
管弦楽：オーボエ2、ホルン2、弦五部（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

楽曲の構成

全3楽章で構成されており、全体の演奏時間は約22分です。

第1楽章 アレグロ
ヘ長調、4分の4拍子。協奏風ソナタ形式で書かれており、活気のある楽章です。

第2楽章 アダージョ
変ロ長調、4分の4拍子。緩やかなテンポで、ソナタ形式に基づいています。

* 第3楽章 ロンドー：テンポ・ディ・メヌエット
ヘ長調、4分の3拍子。ロンド形式による終楽章で、優雅なメヌエット風の主題が特徴的です。

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