5セント硬貨 (アメリカ合衆国)

アメリカ合衆国5セント硬貨（ニッケル）の歴史

アメリカ合衆国で流通する5セント硬貨、通称「ニッケル」は、1ドルの20分の1の価値を持つ硬貨です。その歴史は、初期の銀貨であるハーフダイムから、南北戦争後の金属不足を背景としたニッケル合金の使用へと変化しました。この硬貨は、デザインの変更や製造技術の進歩を通じて、アメリカの歴史と文化を映し出す存在となっています。

略歴

初期の銀貨「ハーフダイム」

元々、5セント硬貨は小さな銀貨で、10セント硬貨の「ダイム」に対して「ハーフダイム」と呼ばれていました。しかし、南北戦争による銀の不足から、銅とニッケルの合金が採用されるようになります。この合金の硬さが製造上の課題を生みましたが、技術の進歩により克服されました。ハーフダイム銀貨のデザインは、ダイム銀貨と類似していました。

戦時中のニッケル

第二次世界大戦中には、ニッケルを使わない特殊硬貨が発行され、5セント硬貨は常に1グラムあたり1セント以上の価値を持っていました。硬貨の重量は、メートル法に基づいて5グラムに設計され、アメリカ国内では1866年の法律によりメートル法の使用が合法化されています。

「ニッケル」という通称

「ニッケル」という言葉が5セント硬貨に適用されたのは、実際にはニッケル合金が使われる前でした。この言葉は、1859年から1864年にかけて製造された「インディアン・ヘッド・セント」硬貨に使われており、南北戦争中には1セント硬貨が「ニッケルズ」や「ニックス」と呼ばれていました。その後、1866年に登場したシールド・ニッケルによって、ニッケル合金と5セントという通貨単位が結びつけられるようになりました。

通信と公共交通機関における5セント

1950年代初頭まで、アメリカの多くの地域では、公衆電話からの近距離通話に5セントが課せられていました。その後、料金は10セントに値上げされましたが、ニューオーリンズなど一部地域では1970年代まで5セントの料金設定が残っていました。また、バスや地下鉄などの公共交通機関の料金も5セントであった時期がありました。

デザインの変遷

シールド・ニッケル（1866年～1883年）

ジェームズ・B・ロングエーカーがデザインしたシールド・ニッケルは、アメリカで最初に製造された5セント硬貨です。盾（シールド）が描かれているのが特徴で、初期には星の間から光線が放射状に伸びるデザインでした。しかし、製造上の困難から光線のデザインは取り下げられ、冶金学的な問題から製造エラーが多く発生しました。

リバティー・ヘッド・ニッケル（1883年～1913年）

リバティー・ヘッド・ニッケルは、自由の女神像の横顔が描かれた面と、数字の5を表すギリシャ文字の「V」がデザインされた硬貨で、「V・ニッケル」とも呼ばれます。1913年には非公式なV・ニッケルが製造され、そのうちの5枚は非常に高値で取引されています。この硬貨は、偽造や詐欺行為の対象にもなり、伝説的なエピソードも残されています。

バッファロー・ニッケル（1913年～1938年）

インディアン・ヘッド・ニッケルとしても知られるバッファロー・ニッケルは、ネイティブ・アメリカンの肖像とアメリカバイソンが描かれた硬貨です。ジェームズ・アール・フレイザーによってデザインされ、アメリカの硬貨の中でも評価の高いデザインの一つです。この硬貨には、製造年が擦り減って見えなくなる問題があり、1918年と1937年には希少なエラー硬貨が存在します。

ジェファーソン・ニッケル（1938年～2004年）

フェリックス・シュラーグのデザインによるジェファーソン・ニッケルは、トマス・ジェファーソンの肖像と彼の邸宅であるモンティチェロが描かれた硬貨です。1954年まで大量に製造され、1968年以降は製造場所のミントマークが表側に移動しました。また、1942年から1945年には、戦時中のニッケルとして銀を含む特殊な硬貨が製造されました。

ウェストウォード・ジャーニー・ニッケル（2004年～2005年）

2004年と2005年には、ルイジアナ買収とルイス・クラーク探検隊を記念した「ウェストウォード・ジャーニー・ニッケル」シリーズが発行されました。このシリーズでは、硬貨の裏面に様々なデザインが用いられ、2005年にはトマス・ジェファーソンの肖像が現代風にリデザインされました。また、2005年にはアメリカンバイソンがデザインされた硬貨も発行されました。

フォーワード・フェイシング・ジェファーソン（2006年～）

2006年以降、5セント硬貨の裏側はモンティチェロのデザインに戻されましたが、表側には前を向いたジェファーソンの肖像が描かれるようになりました。これはアメリカの硬貨としては初めての試みでした。

金属の価値

2007年には、ニッケル硬貨に含まれる金属の価値が額面を上回るほど上昇し、溶解や輸出を規制する措置が取られました。また、戦時中に製造されたニッケル硬貨には銀が含まれており、その金属価値は高くなっています。

収集品としての魅力

ジェファーソン・ニッケルは、その入手しやすさからコレクターに人気があります。特に、モンティチェロの階段が完全に刻印された硬貨は希少価値が高く、高い値段で取引されています。また、エラー硬貨や製造年、ミントマークによっても価値が変動します。

まとめ

アメリカの5セント硬貨は、単なる通貨としてだけでなく、そのデザインや歴史を通じて、アメリカの文化や価値観を伝える存在です。各時代の硬貨は、それぞれ異なる特徴を持ち、その希少性や歴史的背景から、多くのコレクターを魅了しています。

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