747 スーパータンカー

スーパータンカー：ボーイング747を改造した空中消火機

スーパータンカーは、アメリカのボーイング社が製造した大型旅客機ボーイング747を、エバーグリーン国際航空が空中消火活動用に改造した航空機です。深刻化する山火事に対応するため、その圧倒的な消火能力に着目し開発されました。

開発の経緯

21世紀に入り、アメリカでは大規模な山火事が頻発していました。従来の地上からの消火活動では限界があり、航空機による空中消火が不可欠な状況でした。しかし、既存の空中消火機はDC-4やP-3A、C-130といった経年機が多く、事故も発生していました。2002年にはC-130が空中分解する事故が発生し、経年機の使用規制が強化される事態となりました。これにより、空中消火活動はヘリコプターや小型機に頼らざるを得なくなりました。

かつてP2Vを使用した空中消火事業を行っていたエバーグリーン国際航空は、山火事の深刻な被害を目の当たりにし、再び空中消火事業に参入することを決意しました。従来の機体では十分な消火能力を発揮できないと考え、大型機であるボーイング747を改造した「スーパータンカー」を開発しました。

機材

スーパータンカーの一号機は2004年2月19日に初飛行しました。機体番号はN470EV、尾翼番号は947です。二号機はボーイング747-132（SF）を改造したもので、機体番号N479EV、尾翼番号979です。テストでは、3万7900リットルの水を約10秒で投下できる能力が確認されました。

エバーグリーン国際航空は、液体の空中散布装置の設置やFAAの証明取得に多額の資金を投入し、2006年10月に証明書を取得しました。スーパータンカーの消火液搭載量は、それまで使用されていたP-3Aの約7倍にもなります。機体内のタンクは複数の区画に仕切られており、それぞれから連続的に消火液を投下できる構造です。その散水能力は、アメリカンフットボール競技場（100m×50m）の幅で5kmに及ぶ範囲をカバーできます。巡航速度は970km/hです。

2009年のデモンストレーションでは、機内の8つのタンクに約7万6000リットルの水または消火剤を積載し、満水にするのに30分を要することが示されました。

運用

従来の空中消火機は高度200m程度まで降下して消火液を投下していましたが、ボーイング747は低高度飛行が難しいため、高度約3000mから260km/hで消火液を投下する方法が採用されました。FAAは、森林警備当局が水ではなく延焼を食い止める薬剤の使用を求めたことにより、積載重量の増加や機体への影響（運動性能低下や腐食による耐用年数の減少など）を懸念しました。

スーパータンカーには、航空機操作の乗務員の他に、2階席に消火活動のための5名の要員が搭乗します。彼らは、消火活動の指令、コントロール、地形分析、事故監視、ビデオ記録と通信の操作を行います。運用に必要な滑走路長は2,400mで、補給施設のある空港であればどこからでも出動が可能です。

活動

スーパータンカーは、2009年7月22日にスペイン・クエンカ県での消火活動で初めて実戦投入されました。同年8月31日には、アメリカ・カリフォルニア州の山火事にも出動しました。2010年12月5日には、イスラエルのカーメル山火災で国際的な消防機関と連携して活動しました。2011年6月9日には、アリゾナ州の山火事に投入されましたが、すでに広範囲に延焼しており、鎮火には至りませんでした。

スピリット・オブ・ジョン・ミューア

エバーグリーン国際航空は2013年12月に運行停止し、その後倒産・解散しましたが、2016年に空中消火事業を引き継ぐグローバル・スーパータンカー・サービシスが発足しました。

同社は、エバーグリーン国際航空が利用していたボーイング747-400BCF（日本航空で使用されていた機体番号JA8086）を改造し、『スーパータンカー（機体番号N744ST）』として運用を開始しました。2016年11月にはイスラエルでの火災に、2017年2月にはチリの山林火災にも出動し、2017年からは『スピリット・オブ・ジョン・ミューア』の愛称で本格運用を始めました。

しかし、運用コストの高さから程なくして運航は停止し、2021年6月には貨物航空会社のナショナル・エアラインズに売却され、現在は貨物機として活躍しています。

スーパータンカーは、その高い消火能力で多くの山火事と戦いましたが、運用コストの高さが課題となり、短期間での運用終了となりました。しかし、その技術と運用経験は、今後の空中消火活動に貴重な教訓を残しました。

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