A (映画)

映画『A』の概要

『A』は、森達也監督が1998年に制作した日本のドキュメンタリー映画で、主にオウム真理教の広報副部長であった荒木浩に焦点を当てています。この作品のタイトルは、荒木の名前の頭文字「A」とオウムの名称の略称にも由来しています。映画は、地下鉄サリン事件以後のオウム真理教に関する社会の反応を内部から描き出しており、オウム信者の日常や修行の様子、報道陣による取材や警察による逮捕シーンが収められています。特に注目されるのは、信者の逮捕シーンの撮影にまつわる葛藤です。

製作の背景

製作当初、森監督はテレビ局との契約でワイドショー制作を進めていましたが、わずか1ヶ月でその契約を解除されてしまいました。その後、荒木浩に取材の手紙を送り、ようやく2回目の手紙で返事が寄せられました。彼自身、当時は彼のみが取材を申し込んでいたと述べています。1995年9月から撮影を開始し、1996年には共同テレビジョンと契約しますが、8月には契約が打ち切られました。

プロデューサーの安岡卓治は、若手スタッフを配属する計画がありましたが、最終的には森と安岡の二人だけで制作を進めることになりました。撮影中、安岡は森にデジタルカメラを提供しましたが、森のカメラが古くなっていて使い慣れていないことに気を遣い、新しいカメラを渡したことを後悔しているエピソードもあります。合計で撮影した素材は約136時間に及び、膨大なデータが集まりました。

逮捕シーンの重要性

映画の中でも特異なシーンとして、公安警察によるオウム信者の逮捕が取り上げられています。この場面は、転び公妨事件として初めて映像に記録された例であると言われています。森監督はこの逮捕を「転ばせ公妨」と呼び、その重い意味を説明しました。逮捕シーンの映像をオウム側に証拠として提供するかどうかで森と安岡の間で議論が交わされました。森は中立を保つことの重要性を訴えましたが、安岡は世論の反発を懸念し、非常に複雑な判断を下す必要がありました。このような倫理的ジレンマは、ドキュメンタリー制作における重大な問題を浮き彫りにしています。

批判と課題

映画は評価される一方で、批判も受けています。オウム真理教の被害者である弁護士の滝本太郎は、教団が本作を世論工作の一環として利用しようとしたと指摘し、監督もその事実を知っていたのではないかと批判しています。このように、映画制作の過程で様々な利害関係や倫理的な課題が交錯する様子が窺えます。

まとめ

森達也監督の『A』は、オウム真理教という非常にセンシティブなテーマを扱っており、ドキュメンタリー映画としての政治的側面や倫理的な葛藤に迫る作品です。多角的な視点からオウムの内実を描写することで、観客に深い考察を促します。映画はベルリン国際映画祭を含む多くの映画祭で上映され、国内外での評価を受けています。

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