AJS (オートバイ)

AJS：栄光と苦難の歴史を刻んだイギリスのオートバイメーカー

AJSは、イギリスのウルヴァーハンプトンに拠点を置いていた、オートバイおよび自動車メーカーA. J. Stevens & Co. Ltd.が1909年から1931年にかけて製造していたブランドです。117ものレース記録を持つAJSは、レース界において長年に渡りその名を馳せました。しかし、その歴史は決して平坦なものではありませんでした。幾度かの倒産と買収、そして復活劇を繰り返しながら、現在もなおオートバイを製造し続ける、激動の道を歩んできたのです。

創業から第一次世界大戦まで

AJSの始まりは、1897年にジョー・スティーブンスが初めてエンジンを製作したことに遡ります。1900年には125ccエンジンの製造を開始し、他のオートバイメーカーへの供給を開始しました。1903年には、兄弟であるハリー、ジョージ、アルバート・ジョン（ジャック）、そしてジョー（父と同名）の4人が参加し、Stevens Screw Companyを設立、オートバイの一貫生産を開始しました。

1909年、アルバート・ジョンのイニシャルから名付けられたAJSブランドが誕生。1911年には初の市販モデルを発売し、マン島TTレースにも参戦しました。第一次世界大戦勃発により、一時的にオートバイ製造が禁止されましたが、ロシアからの軍用オートバイ融通の要請を受け、製造を継続することができました。

戦後の成功と財政難

戦後、AJSは技術革新を続け、マン島TTレースで数々の勝利を収めました。内拡式ドラムブレーキやチェーン式プライマリー駆動といった新技術の導入も成功を収めました。1920年代には、350ccマシンで500ccまでが許されるセニアTTレースを制覇するなど、その技術力の高さを示しました。1928年には、新しいOHC型エンジンを搭載したモデルを発表。1930年には、250ccのライトウェイトTTレースでも勝利を収めました。

しかし、高価な開発費と世界恐慌の影響により、1931年にはAJSは財政難に陥り、倒産しました。オートバイ関連資産はマチレス社に、自動車関連資産はクロスレー・モータースへと渡り、AJSはブランド名として存続することとなります。

自動車・バス製造への挑戦

AJSはオートバイだけでなく、自動車やバスの製造にも挑戦しました。1923年には自動車の試作を行い、1929年には「Nine」というモデルを発売しました。また、バスの製造も手掛け、200台以上のバスを生産しました。これらの事業は、AJSの多角化戦略の一環として行われましたが、いずれも大きな成功には至りませんでした。

AMC傘下時代とレース界での活躍

倒産後、AJSブランドはマチレス社、そしてAMC（Associated Motor Cycles）傘下となりました。AMCではAJSブランドはレース用マシンの名として存続し、数々の革新的なモデルを生み出しました。中でも第二次世界大戦後の「Porcupine」は、レスリー・グラハムを初代500ccクラスチャンピオンに導きました。「7R」シリーズも高い競争力を持ち、ロードレース世界選手権で勝利を収めました。しかし、AMCは1954年をもってレース活動を終了します。

衰退と復活

1960年代末、イギリスのオートバイ産業は日本メーカーとの競争激化により衰退。AMCも倒産し、AJSブランドはノートン・ビリヤーズへと移りました。1969年には生産を停止しますが、1974年にはフラフ・ブラウンによって権利が買い取られ、小排気量車やオフロード車の生産が再開されました。

AJSの現在

AJSは、その歴史の中で数々の苦難を経験してきましたが、常に技術革新を続け、レース界にその名を刻みつけてきました。現在でも、小排気量車やオフロード車が製造されており、そのブランドは長く人々の記憶に刻まれています。長い歴史と伝統、そして革新性を兼ね備えたAJSのオートバイは、これからも人々を魅了し続けることでしょう。

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