ARMIGER (ミサイル)

ARMIGER

ARMIGERは、かつてドイツの防衛企業BGT社によって開発計画が進められていた先進的な対レーダーミサイルです。その名称は「Anti Radiation Missile with Intelligent Guidance & Extended Range」の頭文字をとったアクロニムであり、「長距離精密誘導対レーダーミサイル」という意味合いが込められています。これは、本ミサイルが想定していた高い性能と役割を端的に示しています。

開発背景と目的

ARMIGERの開発は、主にドイツ空軍の要求に応える形で進められました。当時のドイツ空軍が運用していた対レーダーミサイルであるAGM-88 HARM（High-speed Anti-Radiation Missile）の後継として位置づけられ、より高性能な兵器システムへの更新を目指していました。特に、トーネードECR（Electronic Combat/Reconnaissance）電子戦機への搭載が計画されており、敵のレーダー施設や防空システムを効果的に無力化する「SEAD」（Suppression of Enemy Air Defenses：敵防空網制圧）任務において、その能力を発揮することが期待されていました。当初の計画では、2010年頃の実用化を目指していました。

技術的特徴（計画段階）

ARMIGERは、計画段階から意欲的な技術要素を多く取り入れていました。

超音速性能と推進システム

本ミサイルの最大の特徴の一つが、マッハ3にも達する超音速での飛行能力です。これを実現し、さらに200kmという長大な射程を確保するために、ラムジェットエンジンを採用する構想でした。ラムジェットエンジンは、高速で移動することで吸気口から空気を取り込み、圧縮・燃焼させて推進力を得るエンジンであり、特に超音速域での効率に優れているとされます。これにより、従来のロケットモーターを使用する対レーダーミサイルに比べて、より高速かつ遠距離からの攻撃が可能となる見込みでした。

誘導方式

ARMIGERの誘導システムもまた、複雑で先進的な組み合わせが計画されていました。ミサイルの初期段階から中間段階にかけては、自己完結型の慣性誘導装置に加え、汎地球測位システムであるGPS（Global Positioning System）を併用することで、高い精度での飛行経路維持と目標エリアへの誘導を行う予定でした。終末誘導においては、敵レーダー波を捉える対レーダー誘導に加え、赤外線センサーを利用する方式も組み込む構想がありました。これにより、敵がレーダーを停止させた場合でも、その熱源などを追尾して目標を捕捉・破壊する能力を持たせようとしていました。

開発の経緯と中止

高い性能を目指したARMIGERの開発計画でしたが、順調に進みませんでした。特に、先進的なラムジェットエンジンや複雑な複合誘導システムの実装には、多大な技術的課題とそれに伴うコストが発生しました。開発コストの高騰が問題視されるようになり、最終的に2006年には計画の中止が決定されました。これは、当初目標としていた2010年頃の実用化よりも前の段階での計画終了となり、ドイツ空軍はAGM-88 HARMの後継を改めて検討する必要に迫られることとなりました。

要目（計画値）

計画されていたARMIGERの主要なスペックは以下の通りです。

全長: 4メートル
胴体直径: 200ミリメートル
重量: 220キログラム
射程: 200キロメートル
炸薬量: 20キログラム
最大速度: マッハ3
エンジン: ラムジェットエンジン
誘導方式: 慣性誘導/GPS（中間）、赤外線センサー/対レーダー誘導（終末）

ARMIGER計画は、超音速・長射程の対レーダーミサイルという野心的な構想でしたが、技術的・コスト的な困難により実現に至りませんでした。しかし、その計画内容は、当時の最先端ミサイル技術の追求を示すものでした。

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