ATLAS彗星 (C/2019 Y4)

ATLAS彗星（正式名称C/2019 Y4）は、2019年の終わりに発見された放物線に近い軌道を持つ天体です。発見当初からその明るさの変化が注目を集めましたが、特に2020年に入ってからの劇的な経過は、多くの天文観測者の関心を惹きつけました。

この彗星が発見されたのは2019年12月28日、小惑星地球衝突最終警報システム「ATLAS」の観測によるものでした。この年最後に発見された彗星として記録されています。発見時の明るさは非常に微弱な19.6等級でしたが、年が明けた2020年1月になると、その輝きは目覚ましく増し始めました。わずか1ヶ月ほどの間に、発見当初の約100倍にあたる12等級まで明るくなったことが確認され、一部では「大彗星になるのでは」という期待が高まります。その後も3月にかけて順調に増光を続け、最も明るくなった際には1等級あるいはそれ以上の明るさ、つまり肉眼でも見える可能性が予測されていました。

興味深いことに、このATLAS彗星の軌道は、過去に観測された1844年の大彗星の軌道と非常に似ていることが分かりました。この類似性から、両者が同じ母天体から分離した破片である可能性や、何らかの関連がある天体群の一員である可能性が示唆され、天文学者たちの議論の対象となりました。

地球への最接近は2020年5月23日前後、太陽に最も近づく近日点通過は同年5月31日頃と予測されていました。もし期待通りに増光を続けていれば、これらの時期には夜空で比較的明るく輝く姿が見られたかもしれません。

しかし、彗星の運命は予測不能なものです。3月下旬に入ると、それまで順調だった増光のペースが鈍化し始めました。そして、3月末を境に明るさのピークを迎え、その後は逆に減光へと転じてしまったのです。さらに4月上旬には、彗星の核が分裂した可能性を示す報告が複数上がり、事態の急変が観測されました。

この核崩壊の報告は、後にハッブル宇宙望遠鏡による高解像度観測によって裏付けられました。2020年4月20日と4月23日に撮影されたハッブルの画像には、ATLAS彗星の核が元の姿を保てず、およそ25個から30個もの小さな断片に分裂した様子がはっきりと捉えられていたのです。核が崩壊したことにより、彗星は急速にその活動を停止し、予想されていたような明るさには達しませんでした。結果として、5月にかけて肉眼で容易に見えるような明るさになるという当初の期待は叶わず、眼視等級にさえ達しない見込みとなりました。

このように、ATLAS[彗星]は、発見直後の急激な増光で人々を沸かせ、大彗星への期待を集めたものの、その輝きは長く続かず、核の分裂という劇的な最期を遂げた、波乱に満ちた軌道を持つ天体として記憶されています。

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