ATREX

ATREXエンジンの概要

ATREX (Air Turbo Ramjet EXpander cycle) エンジンは、宇宙科学研究所 (ISAS) で研究開発され、エキスパンダーサイクル (EX) を採用したエアターボ・ラムジェットエンジンです。このエンジンは特徴的な可変サイクル技術を用い、低速域ではターボジェットとして、また高速域ではラムジェットとして機能します。ATREXは、民生向けに開発されたエンジンの中で唯一の存在であり、静止状態からマッハ6までの速度で運転可能という驚異的な特性を持っています。燃料には液体水素を使用し、エアブリージング方式により、エンジン性能の向上を図っています。

開発の経緯

ATREXの開発は1988年に始まり、当初は二段式宇宙輸送機 (TSTO) の第一段エンジンに用いるためのものでした。1992年にはエキスパンダーサイクルを採用することでATREXに発展し、2008年には推力500 kgfのサブスケールエンジンによる地上燃焼試験が成功しました。これは、2010年代の飛行実証を経て、2025年以降の実用化が計画されていたものです。その後は、より高推力な極超音速ターボジェットエンジンの開発にも取り組まれ、未来の極超音速旅客機に向けた研究が進められています。

エンジン構成

ATREXエンジンは、以下の主要な構成要素から成り立っています。

1. インテーク（空気採り入れ口）

この部分は、飛行速度に応じて調整されるスパイクを持ち、高速空気を取り込むためにその速度を低下させます。

2. プリクーラー（空気予冷却器）

圧縮された空気は熱を持つため、液体水素で冷却され、これによりファンを保護しエンジン性能を向上させます。

3. チップタービン

ファンの周囲に位置し、プリクーラーを通過した水素によって回転エネルギーを生成します。

4. ファン（空気圧縮器）

入ってきた空気を圧縮し、内部エネルギーを高める役割を果たします。高速度時には自動で適切に機能します。

5. ミキサー（燃料-空気混合器）

取り込んだ空気と水素を効率的に混合し、安定した燃焼を実現します。重力による旋回流を活用して混合速度を高めます。

6. 熱交換器

燃焼後のガスによって水素を加熱し、エンジンの燃費を改善します。

7. プラグノズル（排気孔）

燃焼ガスを高速度で排出し、異なる飛行条件で安定した性能を提供します。

研究開発体制

ATREXの開発には様々な機関が関与しています。宇宙航空研究開発機構はプロジェクト全体の coordinate 役を担い、アメリカ航空宇宙局グレン研究センターは風洞試験を行います。また、IHI、川崎重工業、三菱重工業、EADSといった企業が各パーツ開発を行っています。

現在の研究動向

最近では、室蘭工業大学を中心に、炭化水素系燃料と液体酸素を組み合わせたガスジェネレータサイクルの研究開発が進行中です。さらに、JAXAでは水素燃料を用いた極超音速ターボジェットの研究が続いており、より高度な航空技術の開発に貢献しています。ATREXエンジンは未来の空の旅の可能性を広げる革新的な技術として期待されています。

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