AVATAR (宇宙船)

AVATAR（宇宙往還機構想）

概要

AVATAR（Aerobic Vehicle for Transatmospheric Hypersonic Aerospace TrAnspoRtation）は、1998年にインドの防衛研究開発機構（DRDO）によって構想された、野心的な再使用型宇宙往還機計画です。これは、単段式で地上から直接軌道へ到達し、帰還後再び使用できる完全再使用型宇宙輸送機（SSTO）としての実現を目指したものでした。当時の宇宙輸送コスト削減とアクセス向上へのニーズに応えるべく、革新的な技術の導入が計画されていました。

革新的な推進システム

この構想における最大の特徴の一つは、その革新的な推進システムにありました。従来のロケットとは一線を画す、空気液化サイクルエンジンと可変サイクルエンジンの組み合わせが計画されていました。これらの技術を統合することで、大気圏内での飛行効率を飛躍的に向上させ、SSTOとしての要求性能を満たすことを目指しました。

空気液化サイクルエンジン

構想の中核をなす技術が、空気液化サイクルエンジンです。これは、大気圏内を飛行する際に、機体前部などから高速で流入する大気を取り込み、これを冷却・圧縮して液体酸素として利用するという画期的な方式でした。空気中の酸素を酸化剤として現地調達できるため、離陸時に必要となる酸化剤の搭載量を大幅に削減できます。これにより、機体全体の質量を軽減し、SSTOとしての実現性を高めることが期待されました。高度が上がり空気が薄くなると、機内に搭載された液体酸素タンクからの供給に切り替えられる設計でした。

可変サイクルエンジン

AVATARの推進システムは、飛行フェーズに応じて最適な作動モードに切り替えることが可能な可変サイクルエンジンを採用する構想でした。低速で離陸し、大気圏内を加速する段階では、周囲の空気を吸入して燃焼させるターボジェットエンジンのように機能します。これは、航空機のように水平離陸や比較的低速での効率的な飛行を可能にするためと考えられます。さらに速度が増加し、超音速から極超音速域に達すると、エンジンはラムジェットまたはスクラムジェットの原理に切り替わります。高速で流入する空気を圧縮する力を利用して燃焼させるラムジェットは、特に高速飛行に適しており、効率的な加速を可能にします。そして、大気圏を離脱する際には、ロケットエンジンモードに移行し、機内の燃料（液体水素）と酸化剤（空気液化またはタンクからの液体酸素）を燃焼させて最終的な軌道速度に到達します。

推進剤

燃料としては、液体水素の使用が計画されていました。液体水素は、液体酸素との組み合わせで高い比推力を発揮する、効率的なロケット燃料です。この高エネルギー推進剤と、前述の空気利用・可変サイクルエンジンを組み合わせることで、単段での軌道到達という非常に高い目標を達成しようとしました。

単段式宇宙輸送機（SSTO）としての挑戦

SSTOは、複数段のロケットを切り離すことなく、一段の機体で地上から軌道まで到達するシステムです。構造の単純化や運用の効率化が期待される一方で、ペイロードを含む全質量を一段の推力で加速する必要があるため、極めて高い質量比（機体構造やエンジン以外の、搭載物と推進剤の質量の割合）が求められます。AVATARが空気液化や可変サイクルエンジンといった複雑な技術を採用したのは、このSSTOの実現という技術的ハードルを克服するための試みでした。特に、大気圏内での空気利用は、必要な酸化剤搭載量を削減することで、この高い質量比要求に対する有効なアプローチとなり得ると考えられました。

インドにおける他の宇宙開発計画との関連

インドでは、宇宙開発を担う主要機関であるインド宇宙研究機関（ISRO）も、将来の再使用型宇宙輸送システムの実現に向けた研究を進めています。例えば、2016年には再使用実験機RLV-TD（Reusabel Launch Vehicle - Technology Demonstrator）の弾道飛行実験に成功しています。RLV-TDは、将来的な軌道投入型再使用機に向けた技術実証を目的とした試験機であり、大気圏再突入や滑空飛行といった技術要素のデータを取得しました。しかし、DRDOが構想したAVATARは、RLV-TDとは異なり、完全なSSTOであり、空気利用や可変サイクルエンジンといったさらに先進的かつ複雑な技術を前提としていました。両者は、インドの宇宙アクセス能力向上という共通目標を持ちつつも、開発アプローチや技術コンセプトにおいて直接的な関連性はないとされています。AVATARは防衛研究開発機構による長期的な技術構想、RLV-TDは宇宙研究機関による段階的な技術実証プロジェクトという位置づけができます。

構想の意義と展望

AVATAR構想は、当時のインドが、将来の宇宙アクセスにおいて、より柔軟で経済的な手段を追求していたことを示しています。空気液化や単段式での軌道投入といった要素技術は、実現すれば宇宙輸送のあり方を大きく変える可能性を秘めていました。技術的な実現の難しさから、具体的な開発計画へと直ちに移行するには至らなかったようですが、この構想自体が、再使用型宇宙輸送システムに関する先進的な研究開発を促進する上で重要な役割を果たしたと言えるでしょう。AVATARは、極超音速飛行と宇宙輸送を融合させようとした、挑戦的なエンジニアリングビジョンを体現しています。

結論

AVATARは、1998年にインドのDRDOが提唱した、革新的な再使用型単段式宇宙輸送機の構想です。空気液化サイクルエンジンと可変サイクルエンジンを組み合わせ、液体水素を燃料とすることで、大気圏内での空気利用による効率的な軌道投入を目指しました。その技術的ハードルは高かったものの、この構想はインドの宇宙開発における将来の方向性を示す重要な試みの一つであり、再使用型宇宙輸送システムへの挑戦的なビジョンを提示しました。

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