Adagio (寺井尚子のアルバム)

『Adagio』

『Adagio』（アダージョ）は、日本の代表的なジャズヴァイオリニスト、寺井尚子によって2009年3月18日に発表された、彼女にとって通算12作目となるオリジナルアルバムです。

このアルバムのタイトルに冠された「Adagio」は、音楽用語で「緩やかに」「くつろいで」といった意味合いを持つ速度標語です。寺井尚子のヴァイオリンが紡ぎ出す繊細で情感豊かな旋律と、それを支える熟練のアンサンブルが、タイトルの示すような、静謐でありながらも深遠な音楽世界をリスナーに届けます。本作は、寺井尚子の持ち味である歌心あふれるヴァイオリンプレイが、落ち着いたテンポ感の中で一層際立つ作品となっています。

参加ミュージシャン

本作のサウンドを構築したのは、寺井尚子の信頼するミュージシャンたちです。リーダーである寺井尚子自身がヴァイオリンを担当。彼女の傍らを固めるのは、長年にわたり寺井の音楽を支えてきた盤石のカルテットメンバーです。ピアノには北島直樹、アコースティックベースには店網邦雄、そしてドラムスには中沢剛が名を連ねています。この編成によって、ジャズの伝統的な形式に基づきつつも、寺井尚子のヴァイオリンをフィーチャーした、緊密で表現力豊かなアンサンブルが実現されています。各プレイヤーのソロ演奏はもちろんのこと、互いの音色や呼吸を感じ取りながら織りなすインタープレイも、アルバムの大きな魅力の一つとなっています。

収録曲と特典

アルバムには、タイトルチューンを含む複数の楽曲が収録されていますが、特に注目されるのはCD-EXTRAとして収録された特典映像です。この映像には、クラシック音楽のレパートリーとしても広く知られる「アルビノーニのアダージョ」のライブ演奏が、約8分間にわたって収められています。アルバムタイトルと同名の楽想を示すこの名曲を、寺井尚子のヴァイオリンとバンドがどのように解釈し、演奏しているのかは、ファンにとって見逃せないポイントです。スタジオ録音されたアルバム本編と、ライブならではの臨場感を味わえる特典映像の両方を楽しむことができます。

制作背景

本作の制作は、寺井尚子自身がプロデューサーを務める形で行われました。自身の音楽的ヴィジョンを明確に反映させたサウンド作りが進められています。エグゼクティブ・プロデューサーとしては、行方均と永田俊作が制作全体を統括しています。レコーディングおよびミキシング・エンジニアは鈴木智雄（Tom Suzuki）が担当し、寺井尚子のヴァイオリンの音色や、カルテット全体の響きを丁寧に捉えています。アルバムの視覚的なイメージを決定づけるカバー写真は宅間國博によって撮影され、作品世界を表現しています。また、アルバムに深みを与えるライナーノーツは高井信成が執筆しています。

リリース後の展開

アルバム『Adagio』のリリースに合わせて、寺井尚子は「寺井尚子“アダージョ”ツアー2009」と題したコンサートツアーを全国各地で開催しました。このツアーでは、アルバムに収録された楽曲を中心に、その洗練されたサウンドをライブパフォーマンスとして披露しました。アルバムで構築された静謐で情感豊かな世界観は、ライブ会場でも多くのリスナーを魅了し、アルバムの成功をさらに印象づけました。

まとめ

『Adagio』は、2009年における寺井尚子の活動を象徴する重要な作品です。タイトルに込められたコンセプト、熟練のミュージシャンたちとの共演、そして丁寧な制作プロセスを経て生み出されたサウンドは、ジャズヴァイオリンというジャンルにおける寺井尚子の地位を確固たるものにしています。特典映像として収録された「アルビノーニのアダージョ」ライブ映像も、本作の芸術性を高める要素となっています。このアルバムは、寺井尚子の音楽に触れる上で欠かせない一枚と言えるでしょう。

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