AptX

aptXとは

aptXは、クアルコムが所有するプロプライエタリな音声圧縮コーデックです。もともとは1980年代にクイーンズ大学ベルファストのスティーブン・スミス博士によって開発され、1990年代以降は映画や放送業界などのプロフェッショナルな現場で、低ビットレートでの高品質な音声伝送技術として利用されてきました。

Bluetoothオーディオでの普及

一般のユーザーにaptXの名が知られるようになったのは、Bluetoothオーディオで広く利用されているA2DPプロファイルの標準コーデックであるSBCの代替として採用されるようになってからです。SBCの音質的な課題を克服するコーデックとして注目され、高音質でワイヤレスオーディオを楽しみたいユーザーのニーズに応えてきました。

歴史と所有権の変遷

aptXの特許および技術は、2010年からCSR plcによって保有されていましたが、2015年にCSRがクアルコムに買収されたことで、現在ではクアルコムがその権利を保有しています。

aptXの派生技術

aptXは、その技術を基にさまざまな派生技術が開発されています。代表的なものとして、高音質化を実現したaptX HD、低遅延を実現したaptX Low Latency、そして状況に応じてビットレートを可変にするaptX Adaptiveなどがあります。

Android OSでの標準採用

aptX HDエンコーダのソースコードがAOSP（Android Open Source Project）に寄贈されたことで、エンコーダのライセンス料が不要になりました。これにより、Android 8以降を搭載したスマートフォンやタブレット端末では、aptXおよびaptX HDが標準でサポートされています。

ただし、受信側のデコーダーにはライセンス料が必要なため、低価格帯のBluetoothイヤホンやスピーカーではaptX/aptX HDに対応していない場合も多くあります。

aptXの動作原理

aptXの基本的な動作原理について解説します。ここでは、CD品質の16ビット44kHzのオーディオストリームがどのように処理されるのかを見ていきましょう。

サブバンド分割

まず、入力されたオーディオストリームは、64タップQMF（直交ミラーフィルタ）によって、11kHzの4つの16ビットサブバンドに分割されます。この処理は2段階に分かれており、最初に2つの帯域（0-11kHzと11-22kHz）に分割され、その後、それぞれがさらに2つの帯域に分割されます。最終的に、0-5.5kHz、5.5-11kHz、11-16.5kHz、16.5-22kHzの4つの帯域に分けられます。

ADPCMによるビット割り当て

各サブバンドに対して、ADPCM（Adaptive Differential Pulse Code Modulation）を用いてビットの割り当てが行われます。一般的に、高周波数の帯域では変化が少ないため、低い帯域と比較して少ないビット数が割り当てられます。具体的には、帯域1（0-5.5kHz）には8ビット、帯域2（5.5-11kHz）には4ビット、帯域3と4（11-16.5kHzと16.5-22kHz）にはそれぞれ2ビットが割り当てられます。

可変ビットレートへの対応

将来的には、各サブバンドにおける変化の分析に基づいて、ビットの割り当てを適応的に変更することが考えられています。例えば、分析結果によっては、9,2,3,2のようなビット配分も可能になります。これにより、より効率的な圧縮が可能になり、音質を維持しながらデータ量を削減できます。

データ変換の例

モノラルチャンネルの場合、44.1kHz、16ビットの入力（705.6kbit/s）は、各サブバンドに割り当てられたビット数に応じて、11.025kHz、16ビットのデータに変換されます。固定ビット割り当ての場合、(8 + 4 + 2 + 2) * 16ビット@ 11.025 kHz = 176.4kbit/sとなります。ステレオの場合、このデータ量が2倍になり、352.8kbit/sとなります。

まとめ

aptXは、高品質な音声伝送を可能にする優れたコーデックであり、その技術はBluetoothオーディオだけでなく、さまざまな分野で応用されています。今後も、aptXの技術発展によって、より快適なワイヤレスオーディオ体験が提供されることが期待されます。

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