Autism Network International

Autism Network International (ANI)

Autism Network International (ANI) は、自閉のある人々自身によって運営されている、自閉者本人のためのアドボカシー団体です。その活動の核となる行動規範には、「反治療的パースペクティヴ」が含まれています。これは、自閉特性を疾患や障害として捉え、「治癒」を目指すようなアプローチに対して批判的な立場を取り、自閉のある状態そのものを肯定的に捉えるべきだという考え方です。

歴史と設立

ANIは1992年、ジム・シンクレア、キャシー・グラント、ドナ・ウィリアムズによって共同で設立されました。彼らの目標は、自閉のある人々が自らのニーズに基づいて自らを組織し、アドボカシー活動を行うためのプラットフォームを創設することでした。活動は当初、ペンパルグループとして始まりましたが、初めて対面での集まりを持った際に、参加者たちは共通の経験と言葉を通じて深い帰属意識や相互理解を得て、自分たちが「普通である」という感覚を共有しました。この経験から、彼らはオンラインフォーラムを立ち上げ、自閉に関する様々な課題について参加者が自由に議論できるコミュニティを構築しました。さらに、ANIは自らの会報である「Our Voice」の発行を開始し、ウェブサイトを通じて広く情報を提供しました。

ANIの歴史の中で特筆すべき貢献の一つに、「神経学的定型（neurologically typical）」という言葉の誕生への影響があります。これは、自閉スペクトラムに属さない人々を指す言葉であり、自閉のある状態を単なる「非定型」ではなく、神経多様性の一部として対等に位置づける視点を広める上で重要な役割を果たしました。ANIは、自閉特性の否定的な側面ばかりに注目するのではなく、むしろ自閉であることによって得られる肯定的な側面や強みにも目を向け、それらを活かすことの重要性を訴えました。また、ANIは自閉のある人々が互いを理解し、支え合いながら、共有された「自閉文化」を楽しむことの価値を学ぶ場を提供してきました。

主な活動：Autreat

ANIが主催する最も代表的な活動の一つが、「Autreat」と呼ばれるリトリート兼カンファレンスです。アメリカ国内で開催されるこのイベントは、自閉のある人々が安心して集まり、交流するための特別な機会を提供します。最初のAutreatは1996年にニューヨークで開催され、その後2001年を除いてほぼ毎年開催されています。1999年には、日本からの参加者を含む約80名が集まる規模にまで成長しました。

Autreatの最大の特徴は、それが自閉者自身によって企画、運営され、あくまで自閉者本人のために設計されている点にあります。これは、しばしば親や専門家を主な対象とし、自閉者「について」議論されることの多い他の自閉症関連カンファレンスとは一線を画しています。Autreatでは、親や専門家なども歓迎されますが、イベント全体のデザインは自閉特性を持つ人々の感覚やニーズに合わせて最適化されています。

具体的な配慮としては、感覚的な過負荷（例：過度の騒音、刺激的な照明）から解放された環境が重視されます。参加者は社会的な交流を強制されることは一切なく、自分のペースで過ごすことが奨励されます。交流の希望を示すユニークなシステムとして、カラーバッジが採用されています。例えば、特定の色をつけたバッジは「誰とでも交流したい」ことを示し、別の色は「よく知らない人からは話しかけられたくない」、さらに別の色は「誰からも話しかけられたくない」といった意思表示となります。これにより、参加者は不要なストレスなく、自分が望むレベルでのみ他者と関わることができます。

また、Autreatでは、口頭での詳細かつ正確な表現を好む傾向や、ハンドフラッピングなどの反復行動（スティミング）といった、自閉特性に伴う一般的な振る舞いが自然なこととして受け入れられ、推奨される側面さえあります。一方で、多くの自閉者が苦手と感じやすい要素、例えば予期せぬ身体的接触（カジュアルなハグなど）や、感覚的な不快感を引き起こしやすい蛍光灯のような照明は、意図的に排除または軽減されています。

Autreatは、社会規範に必ずしも適合しない行動様式や関心を持つ人々が、安心して自分らしく振る舞い、共通の経験を持つ仲間との交流を通じて「不適合なサブカルチャーを追求し楽しむ場」を提供しています。この革新的なイベントは、イギリスのAutscapeやスウェーデンのProjekt Empowermentなど、他の国々で開催される自閉者向けイベントにも影響を与えています。

ANIとAutreatは、自閉のある人々の自己擁護（アドボカシー）の歴史において重要な役割を果たし、自閉者自身が主体となってコミュニティを形成し、自らの文化を育むことの可能性を示しました。

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