BILLY BAT

BILLY BAT：歴史の闇を巡る壮大なミステリー

浦沢直樹と長崎尚志が共同で手掛けた漫画作品『BILLY BAT』は、2008年から2016年にかけて『モーニング』（講談社）で連載されました。紀元前から2001年までという長大な時間軸を背景に、歴史の改竄、人類史の闇、善悪、陰謀、裏切りといったテーマを多層的に描き出した、壮大なミステリー作品です。

特徴的なのは、物語の時間軸が不規則にジャンプする構成で、時系列をシャッフルしながら、まるでパズルのピースを繋ぎ合わせるように、全体像が徐々に明らかになっていく点です。さらに、過去の作品へのオマージュや、現実の歴史事実に基づいたと思われる要素も散りばめられています。そのため、単なるミステリーにとどまらず、歴史や社会への深い洞察も感じさせる作品となっています。

連載中は度々長期休載が行われ、単行本一巻分の内容ずつ、断片的に連載が続けられました。その独特の連載スタイルも、作品の世界観をより一層ミステリアスに演出する効果を生み出しています。

物語のあらすじ

『BILLY BAT』は大きく3つのパートに分かれ、それぞれ異なる主人公が物語の中心となっています。

第一章：ケヴィン・ヤマガタ編

1949年、第二次世界大戦終結直後のアメリカ合衆国を舞台に物語は始まります。冷戦下のアメリカで、日系人漫画家であるケヴィン・ヤマガタは、人気アメリカン・コミック『BILLY BAT』の執筆に勤しんでいました。ある日、彼の元に二人の刑事が訪れ、事件調査への協力を依頼します。その事件をきっかけに、ヤマガタは戦後の日本へと渡り、そこで様々な陰謀や事件に巻き込まれていきます。

日本の復興途上、下山事件を彷彿とさせる出来事を目の当たりにしたヤマガタは、謎の人物来栖清志の影に気づき、次第に自らが巨大な陰謀の渦中にいることを悟ります。彼は、『BILLY BAT』の原稿を巡る争いや、JFK暗殺事件にまで関与することになり、自身の運命を大きく変えていくことになります。

物語は1960年代へと移り変わり、ヤマガタは自身の作品『BILLY BAT』が、自身とは無関係な人物によって盗作され、歪められた形で世に出されていることを知ります。そして、彼は自身の作品を通して、アメリカ同時多発テロ事件を予言するような出来事にも遭遇します。

第二章：ケヴィン・グッドマン編

1980年代、ヤマガタの後継者として、ケヴィン・グッドマンが登場します。彼は、ヤマガタが赤ん坊だった頃、JFK暗殺の現場で救った子供です。ストリートアーティストとして活動するグッドマンは、オードリー・カルキンや、謎の組織に追われることになります。しかし、彼は本物のチャック・カルキン(ヤマガタの元アシスタント)と出会い、『BILLY BAT』の三代目作者として、新たな物語を紡ぎ始めます。

グッドマンは、来栖の企みによって引き起こされそうになった人類滅亡のシナリオを、『BILLY BAT』の最終回を書き換えることで阻止します。その後、彼は予言者として注目を浴びるものの、その運命に翻弄されながら、自身の役割に葛藤していきます。

第三章：二人のケヴィン編

2015年、新たな主人公ティミー・サナダが登場します。彼はグッドマンの後継者として『BILLY BAT』を継承しますが、彼の描く『BILLY BAT』は、次第に歪んだものになっていきます。一方、ヤマガタは消息不明のまま、世界各地を転々としながら、新たな作品を創作し続けていました。

物語は、グッドマンとヤマガタ、二人のケヴィンを中心に展開し、それぞれの視点から『BILLY BAT』の真実、そして人類の未来が描かれていきます。その過程で、様々な登場人物たちが複雑に絡み合い、物語は予想もつかない方向へと進んでいきます。

登場人物

この作品には、個性豊かな登場人物たちが数多く登場します。それぞれが独自の過去や目的を持ち、物語に深みを与えています。主人公であるケヴィン・ヤマガタ、ケヴィン・グッドマン、ティミー・サナダを始め、様々なキャラクターたちの思惑と行動が複雑に絡み合い、物語全体を盛り上げています。

ケヴィン・ヤマガタ: 『BILLY BAT』の初代作者。コウモリが見える能力を持つ。
チャック・カルキン: ヤマガタの元アシスタント。後に『BILLY BAT』の二代目作者となる。
ケヴィン・グッドマン: ヤマガタに命を救われた少年。後に『BILLY BAT』の三代目作者となる。
ティミー・サナダ: グッドマンの後継者として『BILLY BAT』を継承するが、彼の描くビリーは次第に歪んでいく。
来栖清志: 歴史の闇に暗躍する謎の男。
オードリー・カルキン: 偽チャック・カルキンの娘。
ヘンリー・チャールズ・デヴィヴィエ: ヤマガタを襲撃するも、後に改心してヤマガタを守るようになる。
スミス: CIAのエージェントで、ヤマガタ版BILLY BATの大ファン。
唐麻雑風: ヤマガタの師匠。
その他: 下山事件やJFK暗殺に関連する人物など、数多くの登場人物が登場する。

受賞歴

『BILLY BAT』は、その高い評価から、数々の賞を受賞しています。

ルッカ・コミックフェスティバル2012 ベストコミックシリーズ賞
グラン・グイニーシ国際コミック賞 ベスト作品賞
エトナン・ヴォワイヤジュール文学際 想像賞
マックスアンドモリッツ賞 最優秀賞

これら数々の受賞歴は、この作品が持つ高い芸術性と完成度の高さを証明しています。

まとめ

『BILLY BAT』は、ミステリー、歴史、社会、そして人間のドラマが複雑に絡み合った、非常に奥深い作品です。一度読み始めると、その魅力的な世界観から抜け出せなくなるでしょう。時間軸の並べ替えや、現実の歴史を思わせる伏線など、読後には様々な考察が生まれるでしょう。

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