BRM・P180

BRM P180：挑戦的な後方重量配分と操縦性のジレンマ

1972年シーズン、F1コンストラクターのブリティッシュ・レーシング・モータース（BRM）は、新たな挑戦を象徴するマシン、P180を発表しました。このマシンの開発には、強力なスポンサーであるマールボロからの多額の資金が投入されました。

画期的な重量配分と空力設計

P180最大の特徴は、その重量配分にあります。ラジエターとオイルクーラーを車体後部に配置することで、重量を後輪側に集中させる設計（前30％、後70％）を採用しました。これは、当時のF1マシンとしては極めて珍しい試みでした。

さらに、空力性能の向上を目指し、フロントノーズは低く薄いスポーツカーノーズが設計されました。しかし、このノーズは実際にはレースで使用されず、通常のウイングノーズが採用されています。低く設計されたコクピット前方部は、ステアリングホイールと干渉するという問題を引き起こしました。この問題を解決するため、ステアリングホイールを避けるための開口部がコクピットカウルに設けられました。

デビューと苦闘：操縦性の壁

2台製作されたP180は、スペイングランプリでデビューを果たしました。ピーター・ゲシンがステアリングを握り、レースに挑みました。チームメイトのジャン＝ピエール・ベルトワーズは、ブレーキの問題からP160Bを使用せざるを得ませんでした。しかし、P180はデビュー戦から大きな課題に直面します。極端な後方重量配分が原因で、アンダーステア（ハンドルを切っても曲がりにくい状態）が深刻な問題となり、操縦性を著しく悪化させました。

モナコグランプリ後、BRMはP180のレース活動を一時停止。アンダーステアの解消に全力を注ぎました。その結果、オイルクーラーの位置がマシンの右側へと変更されました。イタリアグランプリよりレースに復帰したP180でしたが、残念ながら目覚ましい成績を残すことはできませんでした。

非選手権レースでの輝き

P180の活躍が光ったのは、10月22日にブランズハッチで開催された非選手権レース「ワールド・チャンピオンシップ・ヴィクトリーレース」でした。このレースで、ベルトワーズがP180をドライブし、見事優勝を飾りました。この勝利は、P180の潜在能力を示すものであり、開発陣の努力が実を結んだ瞬間でもありました。

まとめ：挑戦と可能性

BRM P180は、革新的な設計思想と、それを実現しようとした開発陣の情熱を象徴するマシンでした。後方重量配分という挑戦的なコンセプトは、操縦性の問題という大きな壁に突き当たりましたが、その潜在能力は非選手権レースでの優勝という形で証明されました。P180は、成功と失敗が複雑に絡み合った、F1史における興味深い一ページを刻んだマシンと言えるでしょう。開発陣の挑戦と、そのマシンが抱えた可能性と限界は、今もなお多くのF1ファンを魅了し続けています。

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