BTS (放送技術規格)

BTS（ビーティーエス）

BTSは、かつて日本放送協会（NHK）によって定められていた放送技術規格です。正式名称はBroadcasters Technical Standardで、NHK放送技術規格とも呼ばれていました。

制定の背景と目的

第二次世界大戦後、日本の放送は連合国軍最高司令官総司令部（GHQ）の指導のもと、「フル・エア」と呼ばれる、決められた放送時間中は途切れることなく電波を送り続ける体制への移行を求められました。これにより、従来の放送とは比較にならないほど高い品質と信頼性が放送機器に要求されるようになりました。戦前、「私設局」であったNHKの放送は「私的通信」の範疇に位置づけられており、機器の不具合時には一時的に送信を停止し、修理後に再開することが許されていました。しかし、現行の電波法によって新たに「放送」というカテゴリーが設けられ、フル・エアが義務化されたことで、特に放送機器の信頼性確保が喫緊の課題となったのです。

このような状況を受け、NHKに納品される放送機材に対し、明確かつ独自の技術基準を設けることで、放送電波の質的水準を維持・向上させることを目的に、1948年9月にこのBTS規格が制定されました。

規格の展開と衰退

制定当初、BTS規格の内容は日本の工業規格（JIS）や国際無線通信諮問委員会（CCIR）の勧告にも採用されるなど、非常に有用なものでした。昭和30年代には新たに59件もの規格が追加されるなど、当時の日本の放送技術を支える基盤の一つとなりました。

しかしながら、技術革新の速度が速まるにつれて、規格の改訂がそのスピードに追いつかなくなり、次第に陳腐化・形骸化が進みました。加えて、ISO、JIS、IEC、EIAJといった外部の工業規格が整備され、その内容が充実してきたことも、BTS規格の必要性を薄れさせる要因となりました。また、民放で使用される機器や市販品と互換性がなく、型番（BTS呼称）が異なったり、規格に適合させるためだけに特別な仕様の機材を製造する必要が生じたりといった不都合も発生しました。

このような状況から、BTS規格の存在意義が問われるようになり、昭和30年代末頃から廃止される規格が増え始めました。1983年1月時点では、有効なBTS規格の総数はわずか25件にまで減少していました。

全面廃止と現在

陳腐化と外部規格の充実、そして運用上の問題が重なり、BTS規格はその役割を終えました。そして、2001年7月、全てのBTS規格が廃止されました。なお、民放の放送局や劇場などでは、BTS規格ではなく製品固有の型番で機器が呼称されることが一般的でした。

現在では、BTS規格という言葉が広く使われることはほとんどありません。しかし、一部の業務用音響製品、例えばキャビネットラックやマイクホルダーなどにおいて、「BTS準拠」や、NHKが定めた特定のカラーである「協会2号色」といった表示がわずかに見られることがあります。

主なBTS準拠機器の例

かつてBTS規格に準拠していた主な機器には以下のようなものがありました。

マイクロフォン
東芝：A型ベロシティーマイク(RB2-1)、B型ベロシティーマイク(RB1-1)など
アイワ：ベロシティーマイク(RV-1A)など
ソニー：真空管マイクCU1-1、真空管マイク C-37A(CU1-2)、コンデンサーマイクC-38(CU-2A)など
スピーカー
三菱電機（ダイヤトーン）：2S-305(R305)、2S-208(R205)、2S-208C(R205C)など多数
福音電機（現・パイオニア）：PE-20S、PE-16S
ヘッドホン
藤木電器（現・エレガアコス）：DR-631C
音声コネクター
多治見無線電機：BTS21P3B
マイクスタンド
高砂製作所：MF-18TM、PS-38、TBS-130など

協会カラー塗装

BTS規格では機器の塗装色も定められていました。

協会1号色 - マンセル値 10B 3.5/1.5
協会2号色（テレビグレー） - マンセル値 7.5B 6/0.5
協会3号色 - マンセル値 2.5B 7/0.5

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