CD46

CD46 (MCP)

CD46は、別名MCP（Membrane Cofactor Protein）としても知られる、生体内で補体カスケードの働きを適切に調整するタンパク質の一つです。この分子は、私たちの細胞が自身の免疫システムである補体によって誤って攻撃されるのを防ぐ上で、極めて重要な役割を果たしています。同時に、驚くべきことに、特定のウイルスや細菌にとっては細胞へ入り込むための「鍵穴」となる受容体としても機能します。

遺伝子の位置と関連

CD46をコードする遺伝子は、ヒトの染色体1番の長腕（1q32領域）に位置しています。この領域は、補体系の様々な構成要素をコードする他の遺伝子群とともに集積しており、生体防御における補体の重要性を遺伝子レベルでも示唆しています。

補体制御機能

CD46の主要な役割は、補体活性化経路、特に第二経路（alternative pathway）や古典経路（classical pathway）において中心的な役割を果たす活性化産物であるC3b（補体成分3b）やC4b（補体成分4b）の働きを阻害することにあります。CD46は細胞表面でこれらの補体成分に結合し、血漿中に存在するセリンプロテアーゼである第I因子（factor I）によるC3bおよびC4bの分解反応を促進する補因子として機能します。具体的には、C3bやC4bが限定分解されることで、それらがさらに下流の補体反応を進める能力を失い、補体カスケードの増幅や膜攻撃複合体の形成を抑制します。このようなメカニズムにより、CD46は自身の細胞表面での補体活性化を効果的に抑制し、自己の組織が補体による過剰な攻撃や損傷を受けることを防いでいます。この制御機能は、特に血管内皮細胞など、補体活性化の影響を受けやすい細胞にとって不可欠です。CD46は、赤血球を除くほぼ全ての体細胞の表面に広く発現しており、全身レベルでの補体ホメオスタシス維持に貢献しています。

疾患との関連性

CD46の機能が損なわれると、補体制御の破綻が起こり、様々な疾患のリスクが高まることが報告されています。CD46遺伝子における特定の遺伝子変異は、自己の補体システムが自身の細胞や組織を攻撃することで生じる、重篤な全身性疾患である非定型溶血性尿毒症症候群（aHUS）の主要な原因の一つとして特定されています。aHUSは、特に腎臓の微小血管に障害を引き起こし、腎不全に至る可能性があります。さらに、CD46遺伝子の変異は、一部の反復流産や糸球体腎炎といった他の補体関連疾患にも関与している可能性が示唆されています。

病原体受容体としての機能

CD46は、生体防御機構の一員である一方で、多くの病原体にとって細胞への侵入経路として利用されるという、二面性を持っています。現在までに、CD46が少なくとも11種類もの異なる病原体に対する細胞表面受容体として機能することが明らかになっています。その代表的な例としては、麻疹の病原体である麻疹ウイルスや、突発性発疹の原因ウイルスであるヒトヘルペスウイルス-6（HHV-6）が挙げられます。これらのウイルスはCD46を介して細胞に結合し、感染を開始します。また、一般的な呼吸器感染症や消化器感染症などを引き起こすアデノウイルスの中でも、特にB型およびD型のアデノウイルスはCD46を細胞侵入に利用することが知られています。さらに、性感染症の原因となる淋病菌（Neisseria gonorrhoeae）を含む病原性ナイセリア属細菌も、その表面構造であるIV型線毛を用いてCD46に結合することが報告されています。このように、CD46は感染症の成立過程においても重要な役割を担っています。

タンパク質の構造

CD46タンパク質は、細胞膜を一度だけ貫通するタイプの膜タンパク質（タイプⅠ膜タンパク質）です。細胞外に存在する部分は、補体成分や病原体と結合するためのドメインを含んでおり、細胞膜を貫通する領域を経て、細胞内にシグナル伝達に関与すると考えられている細胞内領域を持っています。この膜に固定された構造が、細胞表面での補体制御や病原体との相互作用といったその多様な機能を可能にしています。

まとめ

CD46（MCP）は、補体制御タンパク質として自己細胞を補体による損傷から守るという必須の機能を果たす一方で、麻疹ウイルスやアデノウイルス、病原性ナイセリア属菌など、多くの病原体にとって細胞侵入のための受容体となるというユニークな特徴を持つ分子です。その遺伝子の異常は非定型溶血性尿毒症症候群などの重篤な疾患に繋がる可能性があり、またその機能は感染症の理解や治療戦略の開発においても重要なターゲットとなっています。CD46に関する継続的な研究は、補体関連疾患や感染症に対する新たな診断法や治療法の開発に貢献することが期待されます。

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