C/N比

C/N比（炭素率）とは

C/N比（シーエヌひ）は、有機物に含まれる炭素（Carbon, C）の量と窒素（Nitrogen, N）の量の、質量に基づいた比率を示す指標です。この比率は「炭素率」とも呼ばれます。有機物が持つ炭素と窒素の相対的な量が、その性質や土壌中での分解過程にどのように影響するかを理解するために用いられます。

たとえば、ある有機物の中に炭素が100グラム、窒素が10グラム存在する場合を考えてみましょう。この有機物のC/N比は、炭素量（100g）を窒素量（10g）で割ることによって算出されます。この場合のC/N比は10となります。これは、炭素の量が窒素の量の10倍であることを意味します。

土壌におけるC/N比の役割と作物への影響

土壌、特に畑地土壌の平均的なC/N比は、概ね12前後にあるとされています。土壌中の有機物は、さまざまな微生物によって分解される過程で、その組成に応じた変化をもたらします。C/N比は、この微生物活動における窒素の挙動に大きな影響を与えます。

一般的に、C/N比がおおよそ20という数値を境として、土壌中の窒素の動きは大きく変わると考えられています。

C/N比が20より小さい場合（相対的に窒素が多い）: 有機物の分解を進める微生物は、自身の体を作るために窒素を必要としますが、外部の有機物から得る窒素量が十分すぎるほど多くなります。この場合、微生物が取り込みきれなかった過剰な窒素分は、アンモニウム態窒素などの無機態窒素として土壌中に放出されます。この現象を「無機化」と呼びます。無機化された窒素は、作物が根から吸収できる形で土壌に供給されます。

C/N比が20より大きい場合（相対的に炭素が多い）: 有機物の分解に必要な微生物の活動には炭素がエネルギー源として利用されますが、その過程で微生物が自身の体を構成するために必要な窒素が不足しがちになります。微生物はこの不足を補うため、有機物からだけでなく、土壌中に既に存在する無機態窒素（作物が利用できる窒素）をも積極的に取り込み、自身の体の一部（有機態窒素）へと変換します。この現象を「有機化」と呼びます。微生物に有機化された窒素は、作物にとっては一時的に利用できない状態となります。

高C/N比有機物の施用と窒素飢餓

C/N比が非常に高い有機物、例えば稲わらや樹皮などを未熟な状態で大量に土壌に施用すると、土壌微生物がそれらを分解する際に、土壌中の無機態窒素を激しく奪い合って有機化が進みます。結果として、作物が利用できる無機態窒素の量が著しく減少し、作物の生育に必要な窒素供給が不足する状態に陥ります。この状態は「窒素飢餓」と呼ばれ、作物の葉が黄色くなるなどの生育不良を引き起こします。

ただし、土壌中においてアゾトバクターのような空気中の窒素を固定して利用できる窒素固定微生物が増殖してくると、土壌全体の窒素供給力が高まるため、高C/N比有機物の施用による窒素飢餓のリスクは徐々に緩和されていく傾向があります。

さまざまな有機物のC/N比

有機物の種類によってC/N比は大きく異なります。植物残渣や堆肥、有機質肥料など、それぞれが持つC/N比を理解することは、土壌への施用効果やその後の土壌中での変化を予測する上で非常に重要です。適切な有機物の選択と管理は、健全な土壌環境を維持し、作物の安定的な生育を支えるために欠かせません。

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