Candidatus

Candidatus（カンディダトゥス）

「Candidatus」（カンディダトゥス）は、細菌やアーキアといった原核生物の分類において、特殊な状況下で用いられる暫定的な分類上の地位を示す言葉です。その語源はラテン語で「候補者」や「候補」を意味する言葉に由来しています。この概念は、培養が極めて困難、あるいは未だ成功していない原核生物の研究が進む中で生まれ、1996年には国際細菌命名規約の附録として正式に採用されました。

新しい原核生物を正式な分類群（タクソン）として学術的に発表し、命名するためには、形態観察、生化学的性質の分析、そしてDNA-DNA分子交雑法や16S rRNA遺伝子塩基配列解析といった分子生物学的なデータなど、多岐にわたる包括的な生物学的証拠を提示することが求められます。これらの情報収集には、研究対象となる原核生物を実験室内で純粋に分離・培養できることが不可欠となるケースがほとんどです。

しかしながら、多くの原核生物、特に他の生物に寄生したり共生したりして生きているものは、自然界に近い複雑な環境でしか増殖できない場合が多く、現在の技術では単離培養が非常に難しいのが現状です。厳格に命名規約を適用すると、培養できないこれらの微生物は、たとえ遺伝子解析などで他の既知の生物とは明らかに異なる「新種」であると示唆されても、正式な分類群として認められ、学名を付与することが困難になります。これは、未培養微生物という広大な領域の研究成果発表を阻害する要因となっていました。

こうした背景から、「Candidatus」の地位が設けられました。これは、現時点では培養による詳細なデータは得られていないものの、ゲノム情報やその他の強力な証拠（例：単一細胞ゲノム解析、メタゲノム解析、in situ ハイブリダイゼーションなど、入力にはないが文脈から類推される補足）から、新しい分類群として存在することが強く示唆される場合に、暫定的な名称を与えるための仕組みです。これにより、未培養状態でも研究成果を公表し、分類学的な議論の対象とすることが可能となりました。

「Candidatus」の地位にある原核生物の名称は、一般的な学名とは異なる形式で表記されます。例えば、カンキツグリーニング病の病原菌として知られる生物の一つは、「Candidatus Liberibacter americanus」のように記述されます。ここで、「Candidatus」はイタリック体で表記され、その後に続く属名や種小名（この例ではLiberibacter americanus）は立体で書かれます。略記する場合、Candidatusは「Ca.」と記述されることが一般的です。この独特な表記法は、その分類群がまだ暫定的なものであることを明確に示しています。

もし、この「Candidatus」の地位にある原核生物の培養に成功し、正式な命名規約に従った十分なデータが揃った場合には、その分類群は「Candidatus」の冠称から外され、正式な学名が与えられることになります。このように、「Candidatus」は、培養という従来の壁を越えて、微生物の多様性を明らかにし、その知見を共有するための重要な架け橋としての役割を果たしています。

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