Chain of Responsibility パターン
Chain-of-responsibility パターン（CoRパターン）は、オブジェクト指向設計における重要なデザインパターンの一つです。このパターンは、コマンドオブジェクトと一連の処理オブジェクト（またはハンドラー）で構成されます。
基本的な仕組み
CoRパターンの核心は、コマンド（要求）を処理する責任を複数のオブジェクトに分散させることです。各処理オブジェクトは、以下の情報を保持します。
処理できるコマンドの種類
自身が処理できない場合に、コマンドを次の処理オブジェクトに委譲する方法
必要に応じて、チェーンの末尾に新しい処理オブジェクトを追加する機構
これにより、要求の送信元と処理の実行を分離し、柔軟なシステムを構築することができます。
動作の例
1. クライアントがコマンドオブジェクトを生成し、チェーンの最初の処理オブジェクトに渡します。
2. 処理オブジェクトは、自身の責任範囲内でコマンドを処理するかどうかを判断します。
3. 処理可能であれば、コマンドを処理します。そうでない場合は、チェーン内の次の処理オブジェクトにコマンドを渡します。
4. このプロセスは、コマンドが処理されるか、チェーンの末尾に到達するまで繰り返されます。
派生形
標準的なCoRモデルに加え、以下のような派生形も存在します。
ディスパッチャとしてのハンドラー: ハンドラーがディスパッチャとして機能し、コマンドを複数の方向に送信して、いわゆる責任の木構造を形成するケースがあります。
再帰的な処理: 処理オブジェクトが、自身よりも上位の処理オブジェクトを呼び出し、問題の一部を解決させるケースがあります。この再帰的な処理は、コマンドが完全に処理されるか、ツリー全体を巡回するまで継続されます。例えば、XMLのインタプリタ（パースはするが実行はしない）などで、このパターンが利用されています。
疎結合性
CoRパターンは、オブジェクト間の疎結合性を高める効果があります。これは、処理オブジェクトが自身の責任範囲以外のことを知る必要がないためです。また、新しい処理オブジェクトを簡単に追加したり削除したりできるため、システムの変更や拡張が容易になります。
Javaでの実装例
以下は、Javaによるロギングクラスの例です。各ロギングハンドラーは、ログレベルに基づいてメッセージを処理するかどうかを判断し、必要に応じて次のハンドラーにメッセージを渡します。
java
// 各ログレベルに対応したハンドラー
class DebugLogger extends AbstractLogger {
public DebugLogger(int level) {
this.level = level;
}
@Override
protected void write(String message) {
System.out.println("Writing to debug output: " + message);
}
}
class EmailLogger extends AbstractLogger {
public EmailLogger(int level) {
this.level = level;
}
@Override
protected void write(String message) {
System.out.println("Sending via e-mail: " + message);
}
}
class ErrorLogger extends AbstractLogger {
public ErrorLogger(int level) {
this.level = level;
}
@Override
protected void write(String message) {
System.out.println("Writing to stderr: " + message);
}
}
//抽象ロガー
abstract class AbstractLogger {
public static int DEBUG = 1;
public static int INFO = 2;
public static int ERROR = 3;
protected int level;
//次のロガー
protected AbstractLogger nextLogger;
public void setNextLogger(AbstractLogger nextLogger){
this.nextLogger = nextLogger;
}
public void logMessage(int level, String message){
if(this.level <= level){
write(message);
}
if(nextLogger !=null){
nextLogger.logMessage(level,message);
}
}
abstract protected void write(String message);
}
// メイン処理
public class ChainOfResponsibilityPattern {
private static AbstractLogger getChainOfLoggers(){
AbstractLogger debugLogger = new DebugLogger(AbstractLogger.DEBUG);
AbstractLogger emailLogger = new EmailLogger(AbstractLogger.INFO);
AbstractLogger errorLogger = new ErrorLogger(AbstractLogger.ERROR);
debugLogger.setNextLogger(emailLogger);
emailLogger.setNextLogger(errorLogger);
return debugLogger;
}
public static void main(String[] args) {
AbstractLogger loggerChain = getChainOfLoggers();
loggerChain.logMessage(AbstractLogger.DEBUG, "Entering function y.");
loggerChain.logMessage(AbstractLogger.DEBUG, "Step1 completed.");
loggerChain.logMessage(AbstractLogger.INFO, "Step1 completed.");
loggerChain.logMessage(AbstractLogger.ERROR, "An error has occurred.");
}
}
出力:
Writing to debug output: Entering function y.
Writing to debug output: Step1 completed.
Sending via e-mail: Step1 completed.
Writing to debug output: An error has occurred.
Sending via e-mail: An error has occurred.
Writing to stderr: An error has occurred.
この例では、メッセージがログレベルに応じて適切なハンドラーに渡され、複数の場所に出力されています。
注意点
このロギングの例は、CoRパターンを説明するためのものであり、実際のロギング実装を推奨するものではありません。また、CoRパターンの「純粋な」実装では、通常、メッセージを処理したハンドラーは、後続のハンドラーに責任を委譲することはありません。この例では、説明のため、メッセージが処理されるかどうかに関わらず、チェーン内の次のハンドラーに渡されるようになっています。
関連パターン
Interception パターン: リクエストとレスポンスを傍受し、追加の処理を挿入します。
Interceptor パターン: メソッド呼び出しを傍受し、追加の処理を実行します。
関連原則
Single responsibility 原則(英語): 各クラスは単一の責任を持つべきです。
外部リンク
Article "The Chain of Responsibility pattern's pitfalls and improvements" by Michael Xinsheng Huang(英語)
Article "Follow the Chain of Responsibility" by David Geary(英語)
Article "Pattern Summaries: Chain of Responsibility" by Mark Grand
CoR overview(英語)
Behavioral Patterns - Chain of Responsibility Pattern(英語)
Descriptions from Portland Pattern Repository(英語)
* Apache Jakarta Commons Chain(英語)
CoRパターンは、複雑な処理を複数のオブジェクトに分散させることで、より柔軟で保守性の高いシステムを構築するための強力なツールとなります。
基本的な仕組み
CoRパターンの核心は、コマンド（要求）を処理する責任を複数のオブジェクトに分散させることです。各処理オブジェクトは、以下の情報を保持します。
処理できるコマンドの種類
自身が処理できない場合に、コマンドを次の処理オブジェクトに委譲する方法
必要に応じて、チェーンの末尾に新しい処理オブジェクトを追加する機構
これにより、要求の送信元と処理の実行を分離し、柔軟なシステムを構築することができます。
動作の例
1. クライアントがコマンドオブジェクトを生成し、チェーンの最初の処理オブジェクトに渡します。
2. 処理オブジェクトは、自身の責任範囲内でコマンドを処理するかどうかを判断します。
3. 処理可能であれば、コマンドを処理します。そうでない場合は、チェーン内の次の処理オブジェクトにコマンドを渡します。
4. このプロセスは、コマンドが処理されるか、チェーンの末尾に到達するまで繰り返されます。
派生形
標準的なCoRモデルに加え、以下のような派生形も存在します。
ディスパッチャとしてのハンドラー: ハンドラーがディスパッチャとして機能し、コマンドを複数の方向に送信して、いわゆる責任の木構造を形成するケースがあります。
再帰的な処理: 処理オブジェクトが、自身よりも上位の処理オブジェクトを呼び出し、問題の一部を解決させるケースがあります。この再帰的な処理は、コマンドが完全に処理されるか、ツリー全体を巡回するまで継続されます。例えば、XMLのインタプリタ（パースはするが実行はしない）などで、このパターンが利用されています。
疎結合性
CoRパターンは、オブジェクト間の疎結合性を高める効果があります。これは、処理オブジェクトが自身の責任範囲以外のことを知る必要がないためです。また、新しい処理オブジェクトを簡単に追加したり削除したりできるため、システムの変更や拡張が容易になります。
Javaでの実装例
以下は、Javaによるロギングクラスの例です。各ロギングハンドラーは、ログレベルに基づいてメッセージを処理するかどうかを判断し、必要に応じて次のハンドラーにメッセージを渡します。
java
// 各ログレベルに対応したハンドラー
class DebugLogger extends AbstractLogger {
public DebugLogger(int level) {
this.level = level;
}
@Override
protected void write(String message) {
System.out.println("Writing to debug output: " + message);
}
}
class EmailLogger extends AbstractLogger {
public EmailLogger(int level) {
this.level = level;
}
@Override
protected void write(String message) {
System.out.println("Sending via e-mail: " + message);
}
}
class ErrorLogger extends AbstractLogger {
public ErrorLogger(int level) {
this.level = level;
}
@Override
protected void write(String message) {
System.out.println("Writing to stderr: " + message);
}
}
//抽象ロガー
abstract class AbstractLogger {
public static int DEBUG = 1;
public static int INFO = 2;
public static int ERROR = 3;
protected int level;
//次のロガー
protected AbstractLogger nextLogger;
public void setNextLogger(AbstractLogger nextLogger){
this.nextLogger = nextLogger;
}
public void logMessage(int level, String message){
if(this.level <= level){
write(message);
}
if(nextLogger !=null){
nextLogger.logMessage(level,message);
}
}
abstract protected void write(String message);
}
// メイン処理
public class ChainOfResponsibilityPattern {
private static AbstractLogger getChainOfLoggers(){
AbstractLogger debugLogger = new DebugLogger(AbstractLogger.DEBUG);
AbstractLogger emailLogger = new EmailLogger(AbstractLogger.INFO);
AbstractLogger errorLogger = new ErrorLogger(AbstractLogger.ERROR);
debugLogger.setNextLogger(emailLogger);
emailLogger.setNextLogger(errorLogger);
return debugLogger;
}
public static void main(String[] args) {
AbstractLogger loggerChain = getChainOfLoggers();
loggerChain.logMessage(AbstractLogger.DEBUG, "Entering function y.");
loggerChain.logMessage(AbstractLogger.DEBUG, "Step1 completed.");
loggerChain.logMessage(AbstractLogger.INFO, "Step1 completed.");
loggerChain.logMessage(AbstractLogger.ERROR, "An error has occurred.");
}
}
出力:
Writing to debug output: Entering function y.
Writing to debug output: Step1 completed.
Sending via e-mail: Step1 completed.
Writing to debug output: An error has occurred.
Sending via e-mail: An error has occurred.
Writing to stderr: An error has occurred.
この例では、メッセージがログレベルに応じて適切なハンドラーに渡され、複数の場所に出力されています。
注意点
このロギングの例は、CoRパターンを説明するためのものであり、実際のロギング実装を推奨するものではありません。また、CoRパターンの「純粋な」実装では、通常、メッセージを処理したハンドラーは、後続のハンドラーに責任を委譲することはありません。この例では、説明のため、メッセージが処理されるかどうかに関わらず、チェーン内の次のハンドラーに渡されるようになっています。
関連パターン
Interception パターン: リクエストとレスポンスを傍受し、追加の処理を挿入します。
Interceptor パターン: メソッド呼び出しを傍受し、追加の処理を実行します。
関連原則
Single responsibility 原則(英語): 各クラスは単一の責任を持つべきです。
外部リンク
Article "The Chain of Responsibility pattern's pitfalls and improvements" by Michael Xinsheng Huang(英語)
Article "Follow the Chain of Responsibility" by David Geary(英語)
Article "Pattern Summaries: Chain of Responsibility" by Mark Grand
CoR overview(英語)
Behavioral Patterns - Chain of Responsibility Pattern(英語)
Descriptions from Portland Pattern Repository(英語)
* Apache Jakarta Commons Chain(英語)
CoRパターンは、複雑な処理を複数のオブジェクトに分散させることで、より柔軟で保守性の高いシステムを構築するための強力なツールとなります。
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