Dの複合

Dの複合

松本清張による『Dの複合』は、1960年代に執筆された長編推理小説であり、多くのミステリー愛好者に評価されています。本作は、光文社の月刊総合雑誌『宝石』に連載され、その後1968年に光文社から刊行されました。連載時の挿絵を手がけたのは山藤章二で、物語の舞台や登場人物の魅力を引き立てていました。

物語の概要

この作品は、現代の怨念を背景に、各地に残る民俗説話と連続殺人事件の関連を描いています。特に、著者の古代史への知識と過去のブームが相まって、各地の伝説が事件に絡む形で展開されていくのです。特別に加筆修正された後、発売されたカッパ・ノベルス版は人気を博し、発行部数は60万部を超え、ベストセラーとなりました。

あらすじ

物語は、売れない小説家・伊瀬忠隆が主人公です。彼は「月刊 草枕」の依頼を受け、地方の伝説を探す旅に出ることになります。取材の一環として、浦島太郎の伝説を探求するために、編集者浜中三夫と共に丹後半島の網野町を訪れました。この旅の途中、宿泊した木津温泉での捜査が始まり、人間の死体が埋まっているという投書に遭遇します。その後、同じ場所からは「第二海竜丸」と刻まれた木片が見つかります。

取材は続き、網野神社から明石へと移動しますが、各地で次々と奇怪な事件が発生し、伊瀬はその背後に潜む暗示に巻き込まれていきます。旅の途中で出会うさまざまな人々との交流や、彼が直面する不可解な出来事が、物語をさらに奥深くしていきます。

登場人物

• - 伊瀬忠隆：東京都練馬区に住む小説家で、苦しみながらも執筆を続けている。
• - 浜中三夫：雑誌『月刊 草枕』の編集者で、幅広い知識を持つ。
• - 坂口みま子：明石市の柿本神社で伊瀬に出会う女性。
• - 二宮健一：購読者として、伊瀬たちと運命的に出会う読者。
• - 奈良林保：天地社の社長で、財を築いた実業家。
• - 照千代：三朝温泉の元芸者で、物語に深く関わる。

これらのキャラクターは、物語を進行させるうえで欠かせない存在であり、それぞれの背景や役割が緻密に描かれています。

本作の背景と影響

松本清張は、1965年の夏に木津温泉を訪れ、その体験を基に本作を執筆しました。宿泊した旅館「ゑびすや」は現在も営業しており、小説内の「浦島館」のモデルとされています。この旅館での出来事や、著者の過去の様々な体験が、物語に色を添えています。また、連載時に描かれた考古学や民俗学の記述は、単行本ではいくつか省略されていますが、著者の幅広い知識が光っています。

テレビドラマ化とその影響

1993年には『Dの複合』がテレビドラマ化され、視聴者の期待に応えました。ドラマは原作と異なり、登場人物やストーリーが簡略化されていますが、放送当時は高視聴率を記録しました。出演者たちは、各キャラクターを演じる際、独自の解釈を持ちながらも、原作の雰囲気を忠実に再現する努力がなされました。

結論

『Dの複合』は、松本清張自身の知識や経験をもとに、民俗伝説と現代の問題を織り交ぜた作品です。複雑に絡み合った人間関係や不可解な出来事が織り交ぜられ、読者を引き込む魅力が詰まっています。推理小説としての楽しさのみならず、深いテーマが浮かび上がる本作品は、今なお高く評価され続けています。

もう一度検索