D3BOS

D3BOS (ディースリーボス)

D3BOSは、日本のゲームメーカーであるタイトーが1991年に発表した、画期的な体感型ゲーム筐体です。「DYNAMIC DIRECT DIMENSION BURST OUT SYSTEM」の頭文字からその名が付けられました。当時の業務用ゲーム市場において、そのユニークな機構は大きな注目を集めました。

筐体の特徴

この筐体の最大の特徴は、プレイヤーが搭乗する部分全体が360度全方向に回転する機構を備えていた点にあります。これは、先行してセガが開発したR-360という体感マシンと同様のコンセプトに基づいています。しかし、D3BOSは球体状のカプセル内部にプレイヤーが乗り込む形式であり、シートがむき出しだったR-360とは異なります。

内部には2人分のシートが設置されており、1人だけでなく2人で同時に体験することが可能でした。操作方法は従来のゲーム筐体とは異なり、ジョイスティックなどのコントローラーは一切ありません。スクリーンに映し出される映像や展開に合わせて筐体自体が自動的に動き、プレイヤーはシートに座っているだけで、その動きを文字通り体感するというものでした。

このような性質から、単なるゲームというよりも、映像と連動した動きを楽しむアミューズメントマシンとしての側面が強かったと言えるでしょう。デートでの利用なども想定されていたとされています。

発表と同時に、『タイムギャル』や『メガブラスト』、『バーチャルリアリティマスター』など、4種類の専用ソフトウェアがリリースされており、プレイヤーはこれらのラインナップの中から好きなタイトルを選んで体験することができました。

市場での展開と普及

D3BOSは主に、当時東京都町田市にあったタイトーのテーマパーク「タイトー・キャノンボールシティ」や、タイトーが直営していた大型ゲームセンターを中心に設置されました。

しかし、導入にはいくつかの大きなハードルがありました。まず、筐体本体の価格が非常に高額で、1500万円から2000万円程度と、当時の一般的な業務用ゲーム機の価格を大きく上回っていました。また、プレイ料金も1人600円、2人同時で1000円と高めに設定されていました。

発表された1991年以降、ゲームセンターでは対戦型格闘ゲームが一大ブームを巻き起こしており、プレイヤーの関心はそちらに集中していました。このような背景や高額な導入・プレイ料金も影響し、D3BOSの設置台数は期待されていたほどには伸びませんでした。

1993年には、アップグレード版である「SUPER D3BOS」が発表されました。筐体のカラーリングがグレーから黒に変更されたほか、内蔵モニターがブラウン管から32インチのプロジェクターに大型化され、さらにウーハーが装備されるなど、映像・音響面が強化されていました。

安全への配慮

D3BOSは360度回転するという特殊な筐体であったため、安全対策が非常に重視されていました。R-360と同様に、筐体の安全な運用を管理するために、アテンダント（オペレーター）が常に傍らに配置されていました。非常時には、外部から回転機能を停止させることが可能でした。

また、プレイ中に気分が悪くなった場合など、プレイヤー自身の意思で緊急停止できるように、筐体内部には緊急停止スイッチが設けられていました。

セガ R-360との比較

同じく360度回転する体感型筐体として、しばしばセガのR-360と比較されますが、D3BOSにはいくつかの明確な違いがありました。

搭乗形式: R-360はシート（コックピット）が外部に露出していましたが、D3BOSは球体状のカプセル内部にシートが配置されていました。
乗員数: R-360は1人乗りでしたが、D3BOSは2人同時にプレイ可能でした。
操作性: R-360はコントローラーを使ってゲーム内の操作を行えましたが、D3BOSにはコントローラーがなく、プレイヤーによる直接的な操作はできませんでした。
対応ソフト: R-360のシートは特定の1本のゲームに対応していましたが、D3BOSは発売時点で用意された4種類のソフトの中から選択してプレイできました。

関連する出来事

1992年8月27日には、北海道旭川市内のゲームセンターでD3BOSの運用中に事故が発生しました。プレイしていた女性客2名のうち1名が、回転するカプセル内部に頭などを接触させ、大けがを負う事態となりました。

この事故に関連し、筐体を操作していたアルバイト従業員が業務上過失傷害の疑いで書類送検されました。旭川中央警察署の調べによると、通常は従業員がシートベルトの着用を確認する手順を、この時は客自身に任せてしまっていたことが事故の一因と見られています。

業界紙である「ゲームマシン」は、メーカーが定めた指示通りの手順を踏んでいれば事故は防げたとして、メーカーに責任はないとする見解を示しました。また、ゲームセンターの運営元は被害に遭われた客への補償を行っています。警察は、この過失は悪意によるものではないため、従業員に対する刑罰は軽いものになると推測しました。

D3BOSは、その革新的な体感機構と高額さ、そして当時の市場状況が重なり、広く普及するには至りませんでしたが、体感型ゲームの歴史において特異な存在として記憶されています。

もう一度検索