Dasein

Dasein（ダーザイン）──「ここにいる」存在

Dasein（ダーザイン）は、ドイツ語で「ここにいる」を意味する言葉です。そのままの意味で捉えることもできますが、哲学、特に実存哲学の文脈においては、より深い意味を持ちます。

この言葉は、20世紀を代表する哲学者、マルティン・ハイデッガーによって用いられ、彼の代表作『存在と時間』において中心的な概念として展開されました。ハイデッガーは、従来の哲学が「存在」を抽象的な概念として捉えてきたことに対し、人間の「存在」を具体的な、生きた現実として捉え直そうと試みました。そして、そのための鍵となる概念としてDaseinを提示したのです。

では、具体的にDaseinとはどのような意味を持つのでしょうか？

簡単に言えば、Daseinとは「現存在」であり、世界の中に存在し、自らの存在を自覚している存在です。単なる「存在」ではなく、「ここにいる」という現実的な存在、つまり人間そのものを指しています。

ハイデッガーは、Daseinを特徴づけるいくつかの重要な側面を指摘しています。まず、Daseinは「世界」の中に存在しています。これは、Daseinが孤立した存在ではなく、常に周囲の環境、他者、そして自分自身の存在とのかかわりの中で存在することを意味しています。

さらに、Daseinは「時間性」を持つ存在です。過去、現在、未来という時間軸の中で、Daseinは自らの存在を理解し、未来に向かって生きようとしています。その時間性こそが、Daseinの存在を特徴づける重要な要素と言えるでしょう。

そして、Daseinは「解明性」を持っています。これは、Daseinが自らの存在を問う存在であることを意味します。「私は何者か？」「なぜ存在するのか？」といった問いは、Daseinの根源的な特徴であり、この問いを問い続けることによって、Daseinは自らの存在を深く理解しようとします。

Daseinという概念は、従来の哲学とは大きく異なる視点から「存在」を捉える試みです。ハイデッガー以前の哲学では、存在は静的で、客観的なものとして捉えられてきました。しかし、ハイデッガーは、存在は動的で、主体的なものであると主張し、人間の存在をその中心に据えたのです。

ハイデッガーのDasein概念は、実存主義という哲学の流れに大きな影響を与えました。実存主義は、個人の自由、責任、そして存在の不確定性を強調する哲学であり、Daseinは実存主義の核となる概念と言えるでしょう。

Daseinの概念を理解することは、私たち自身の存在を理解する上で重要な一歩となるかもしれません。私たち自身も、世界の中に存在し、自らの存在を問うDaseinであるからです。

関連概念

定有(Sein): ハイデッガー哲学における基本概念の一つ。存在そのものを指す。
ドイツ観念論: カント、ヘーゲルらの哲学。ハイデッガーは、ドイツ観念論を批判的に検討している。
ニーチェ: ハイデッガーに影響を与えた哲学者。ニーチェの思想は、ハイデッガーのDasein概念にも反映されている。
現象学: 経験を記述・分析する哲学。ハイデッガーは、現象学の影響を受けている。
* 実存主義: 個人の自由、責任、存在の不確定性を強調する哲学。ハイデッガーは、実存主義の重要な先駆者とされる。

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