Doctor of Education

教育学博士 (Doctor of Education, Ed.D.)

Doctor of Education、略称Ed.D.は、主にアメリカ合衆国の教育関連大学院で授与される、博士課程修了者に与えられる学位の一つです。この学位は、アメリカ合衆国教育省や人事管理局といった公的機関においても、純粋な学術研究に基づくPh.D.（哲学博士）などと並ぶ、正規の博士レベルの学位として認められています。

歴史的背景

この学位は、1920年代にアメリカのハーバード大学で初めて設けられました。創設当時の位置づけとして、伝統的なPh.D.が高度な学術研究や独創的な探求に重点を置いていたのに対し、Ed.D.は高度な学術研究に加え、その応用にも焦点を当てたものとして区別されました。しかし、学術的に高度な探求を要求されるという点においては、両者に重なる部分も少なくありませんでした。

性質と位置づけ

Ed.D.は、特に学校教員や管理職など、教育現場における実践的なリーダーシップや応用能力の向上を目指す者を対象とした職業学位としての性格が強いのが特徴です。日本の専門職学位（主に修士レベルで付与されるものが多い）とは異なり、Ed.D.は博士レベルの学位に分類されます。アメリカ合衆国における学位制度は多様ですが、日本の文部科学省中央教育審議会の資料でも、「Doctor（博士）」「Master（修士）」「First-Professional Degree（第一職業専門学位）」の三段階に整理されており、Ed.D.はPh.D.などが位置づけられる「Doctor（博士）」レベルのうち、教育分野の実践的な職業学位として明確に挙げられています。これに対し、弁護士養成のためのJ.D.や医師養成のためのM.D.といった学位は、「First-Professional Degree」という別のカテゴリに分類されている点も理解しておく必要があります。

アメリカ合衆国でのプログラム

アメリカ合衆国において、Ed.D.は主に「教育リーダーシッププログラム」といった名称の課程で提供されます。純粋な理論や研究手法の探究に重きを置くPh.D.プログラムとは異なり、Ed.D.の課程では、情報科学、学校経営、文化人類学、社会学、都市計画など、教育実践に関連する幅広い分野において、より現実的な問題解決に役立つ実践的な方法論の修得を目指します。プログラムの基本的な目的は、教育者が幅広い知識と実践的なスキルを統合し、教育現場で直面する複雑な課題に効果的に対応できる思考能力を養うことにあります。このため、教育リーダーシッププログラムでは、理論学習に加え、活発な議論、実践的な演習、専門的な文書作成といった、現場で役立つ具体的な技能の向上に重点が置かれています。標準的な修業年限は3年とされており、課程は段階的に進みます。

1年次: 調査手法の基礎、教育理論、学校経営の基本、教育に関する法律や学校制度に関する理解を深めます。
2年次: 生徒の発達に関する理論、教育評価の手法、データ分析、統計の活用方法を学び、ケーススタディなどを通じて実践的な分析力を養います。
* 3年次: 学生自身が設定した、教育現場の課題解決に繋がる実践的なプロジェクト課題に集中的に取り組みます。

学位の取得には、通常、3年目のプロジェクト課題に関する口頭試問による厳正な審査を通過し、その後、その成果をまとめた博士論文を提出することが要件となります。

日本での導入事例

日本国内においては、Ed.D.プログラムはまだ一般的ではありませんが、導入事例も存在します。例えば、広島大学大学院教育学研究科の博士後期課程人間科学専攻では、教職課程を担当する大学教員などを養成するプログラムとして、Ed.D.プログラムを設置しています。同研究科で授与される「博士（教育学）」の学位が、アメリカのEd.D.学位に相当するものと位置づけられています。

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