E・S・ガードナー

アール・スタンリー・ガードナー（1889-1970）は、アメリカ合衆国を代表する推理作家にして、弁護士という異色の経歴を持つ人物です。マサチューセッツ州モールデン生まれ。鉱山技師だった父親の仕事の関係で、幼少期は転々と移り住む生活を送りました。

1909年にパロアルト高校を卒業後、バルパライソ大学法学部に入学するも1ヶ月で中退。その後、法律事務所に勤務し、独学で司法試験に合格、弁護士となりました。1911年のことでした。その後、カリフォルニア州で弁護士事務所を開設、弁護士として活動する傍ら、様々なペンネームを用いて執筆活動を開始します。1921年には短編小説「The Police of the House」でデビューを果たしました。

ガードナーは、弁護士としての経験を活かし、数々の魅力的なシリーズキャラクターを生み出しました。怪盗レスター・リース、弁護士ケン・コーニング、検事ダグラス・セルビイなど、20以上のシリーズを手がけたと言われています。しかし、ガードナーのキャリアにおいて最大の成功を収めたのは、なんと言っても弁護士ペリー・メイスンを主人公とするシリーズでした。1933年に発表された「ビロードの爪」を皮切りに、ペリー・メイスンシリーズは82作品の長編シリーズへと発展し、彼の名声を不動のものとしました。この成功により、1934年には弁護士を辞め、専業作家となります。

ガードナーは、ペリー・メイスンシリーズ以外も、A・A・フェア、カイル・コーニングなど、複数のペンネームを使い分け、多様な作品を発表しました。その作品数は小説以外のものも含めると、約900編にも上ると言われています。代表的なものとしては、私立探偵バーサ・クールとドナルド・ラムを主人公とする「クール＆ラム」シリーズがあります。また、地方検事ダグ・セルビイと悪徳弁護士A・B・カーのシリーズも人気を博しました。これらの作品群は、ペリー・メイスンシリーズとは視点が異なり、検察側の立場から事件を描いている点が特徴です。

ガードナーは多作であり、非常に速いペースで執筆活動を行っていました。また、原稿を作成するのではなく、口述筆記を利用した独特の執筆スタイルで知られています。その独特のスタイルが、彼の驚くべき執筆スピードを支えたのです。

作家としての成功に加え、ガードナーは社会貢献活動にも積極的に取り組んでいました。第二次世界大戦後には、「最後の法廷」というプロジェクトを立ち上げ、冤罪で有罪判決を受けた人々の再審請求に尽力しました。法律と調査の専門家たちと共に、自ら先頭に立って活動したのです。この活動は、彼の正義感と人道的な精神を示すものでした。

彼の功績は高く評価され、1952年にはエドガー賞犯罪実話賞を、1962年には巨匠賞を受賞しました。これらの賞は、彼の作品と社会活動の両面における卓越した貢献を認められた証となっています。

ガードナーの作品は世界中で読まれ、翻訳も数多く存在します。日本では、ペリー・メイスンシリーズを始め、クール＆ラムシリーズ、ダグ・セルビイシリーズ、レスター・リースシリーズなどが翻訳・出版されています。しかし、彼の膨大な作品群のすべてが翻訳されているわけではなく、多くの未翻訳作品も残されています。

アール・スタンリー・ガードナーは、弁護士としての経験と高い執筆能力を駆使し、多様な作品を生み出した、まさに類まれな作家でした。彼の作品は、現在でも世界中の読者から愛され続けており、ミステリー文学史に大きな足跡を残していると言えるでしょう。彼の生涯と作品は、これからも多くの人々にインスピレーションを与え続けることでしょう。

もう一度検索