EcoRV

EcoRV（エコアールファイブ）

EcoRV（エコアールファイブ）は、分子生物学の分野で広く用いられる重要なツールの一つであり、II型制限酵素に分類される代表的な酵素です。制限酵素は、特定のDNA塩基配列を認識し、その内部または近傍を切断する能力を持ったタンパク質であり、EcoRVもまた、特定の配列に対してこの機能を発揮します。

起源と発見

この酵素は、特定の細菌株から単離されたものであり、その名前の由来にもなっています。EcoRVは、一般的な微生物である大腸菌（Escherichia coli）の特定の株であるR株から発見されました。Ecoという名称は、この由来菌であるEscherichia coliにちなんでいます。また、「RV」という部分は、大腸菌R株から見つかった5番目の制限酵素であることを示しています。このように、EcoRVという名前は、その発見源と順番を示唆しています。

作用メカニズム：特定の配列認識と切断

EcoRVが他の制限酵素と区別される重要な特徴の一つは、その認識するDNA配列と、切断後のDNA断片の末端形状です。

EcoRVは、5'-GATATC-3' という特定の6塩基配列を二本鎖DNA上で認識します。この配列は、5'から3'の方向に読んだ場合に相補鎖の3'から5'の方向も同じ配列になる「パリンドローム配列」に近い特徴を持っています。EcoRVは、この認識配列内に正確に結合し、DNAの二本鎖を切断します。

切断は、認識配列である5'-GATATC-3'内のチミン（T）とアデニン（A）の間で起こります。DNAの二本鎖は互いに逆向きに走っているため、一方の鎖が5'-GAT | ATC-3' と切断されると、もう一方の相補鎖（3'-CTATAG-5'）もまた、3'から5'の方向に読んで対応するチミン（T）とアデニン（A）の間、すなわち 3'-CTA | TAG-5' の位置で切断されます。

この切断の結果、生成されるDNA断片の末端は、平滑末端（blunt end）となります。平滑末端とは、DNA二重らせんの切断箇所において、突出した一本鎖部分が存在せず、両方の鎖の末端が揃った状態を指します。これは、一部の制限酵素が生成する、突出した一本鎖部分を持つ「粘着末端（sticky end）」とは対照的です。

EcoRVによる切断パターンを模式的に示すと以下のようになります。

切断前の二本鎖DNA配列:

dna
5'-GATATC-3'
3'-CTATAG-5'


EcoRVによる認識と切断部位:

dna
5'-GATA TC-3'
↑ ↑
3'-CTAT AG-5'


EcoRVによる切断後のDNA断片:

dna
5'-GAT ATC-3'
3'-CTA TAG-5'


上図のように、切断された二つのDNA断片の末端は、いずれも完全に二本鎖の状態であり、突出した一本鎖の「のりしろ」部分が存在しません。この平滑末端を生成する能力は、特定の分子生物学実験、例えばDNA断片のライゲーション（結合）において重要な特性となります。

代表的な制限酵素として

EcoRVは、平滑末端を生成するII型制限酵素の中でも特に代表的なものとして広く認知され、利用されています。その明確な認識配列と切断部位、そして予測可能な平滑末端の生成という特性から、遺伝子クローニングやゲノム解析など、様々な分子生物学的な操作において基本的なツールとして機能しています。特定のDNA配列を正確に切断し、後続の実験（例えば他のDNA断片との結合）に適した末端形状を準備するために、EcoRVは研究室で頻繁に使用されています。

まとめ

EcoRVは、大腸菌R株由来のII型制限酵素であり、特定の6塩基配列（GATATC）を認識し、その内部を切断することで平滑末端を生成します。その明確な作用特性により、分子生物学実験におけるDNAの操作に不可欠な酵素として、代表的な存在となっています。

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