GPS衛星

GPS衛星について

GPS衛星（Global Positioning System satellite）は、地球上のあらゆる場所で正確な位置情報を取得するための[グローバル・ポジショニング・システム]を構成する人工衛星です。正式には「NAVSTAR（Navigation Satellites with Time And Ranging）衛星」と呼ばれています。

概要

GPS衛星は、セシウムまたはルビジウム原子時計を搭載しており、非常に正確な時間情報を提供します。この時間情報と、衛星の軌道情報（天体暦）を組み合わせることで、地上の受信機は複数の衛星からの信号に基づいて自身の位置を特定します。

GPS衛星は、1.2GHz/1.5GHz帯の電波を使用して、時間情報、概略的な天体暦（約6日ごとに更新）、自身の天体暦（約90分ごとに更新）を含むデータを送信しています。受信機は、これらの信号を解析することで、高度な演算によって正確な三次元位置を割り出します。

1993年12月に24機の衛星が揃い、初期運用が開始されました。その後、1995年4月には24機体制が確立し、正式なサービス運用が開始されました。

衛星軌道

GPS衛星は、高度20,200kmの準同期軌道上に配置されています。軌道傾斜角は55度で、周期は約12時間です。24機の衛星は6つの軌道面に分かれており、各軌道面には4機の衛星が配置されています。これにより、地上のどこからでも、少なくとも6機以上の衛星が同時に視認できるようになっています。

現在運用されているGPS衛星は31機に増強されており、これにより測定精度が向上しています。追加の7機は、主要なコンステレーションの軌道外に配置されており、冗長性と信頼性を確保しています。これにより、複数の衛星が故障した場合でもシステムの運用を維持できます。

送信信号

GPS衛星は、C/Aコード（粗い精度）とPコード（高精度）の少なくとも2種類の信号を送信します。

C/Aコード: 1023チップの擬似乱数コードを使用し、1000分の1秒ごとに繰り返されます。各衛星は固有の符号を使用しており、同じ周波数で送信されても受信時に分離できます。
Pコード: より高精度な擬似乱数コードを使用し、毎週繰り返されます。通常はYコードによって暗号化され、解読キーを持つ受信機のみが利用できます。
Mコード: 軍用の信号で、高強度の妨害下でも利用可能です。

GPSで使用される周波数帯は以下の通りです。

L1 (1575.42MHz): ナビゲーションメッセージ、C/Aコード、P(Y)コードを送信。民生用の信号で、一部軍用信号も含む。次世代衛星では、より高強度の民用信号も送信予定。
L2 (1227.60MHz): P(Y)コードを送信。一部衛星では、より高強度の民生信号や軍用信号も送信。
L3 (1381.05MHz): 核爆発探知システムで使用。
L4 (1379.913MHz): 電離層の研究に使用。
L5 (1176.45MHz): より高精度な位置測定を可能にする新しい民生用信号。航空関係者にも利用され、通信妨害への対策となる。

打上げ済みの衛星

現在運用されているGPS衛星は、ブロックIIRシリーズ以降の衛星です。

ブロックIシリーズ

GPSの初期段階を担った衛星で、1978年から10機が打ち上げられました。軌道傾斜角は63度。衛星の3軸制御や太陽電池、Sバンド/UHF通信、ヒドラジンスラスタなどの基本設計は、後の世代の衛星に引き継がれました。

製造者: ロックウェル・インターナショナル社
姿勢制御方式: 3軸制御
太陽電池: パドル型×2枚
設計寿命: 5年
重量: 759kg
軌道: 高度20200km円軌道,軌道傾斜角63度

ブロックIIシリーズ

本格運用された第2世代のGPS衛星。地上からの制御信号なしで2週間運用できる能力を持つ。1989年から打ち上げられ、ルビジウムとセシウム原子時計を搭載。

製造者: ロックウェル・インターナショナル社
姿勢制御方式: 3軸制御
太陽電池: パドル型×2枚
設計寿命: 7.5年
重量: 1660kg
軌道: 高度20200km円軌道,軌道傾斜角55度

ブロックIIAシリーズ

ブロックIIを改良し、自律運用期間を180日に延長。1990年から1997年にかけて19機が打ち上げられました。

製造者: ロックウェル・インターナショナル社→ボーイング社
姿勢制御方式: 3軸制御
太陽電池: パドル型×2枚
設計寿命: 7.5年
重量: 1816kg
軌道: 高度20200km円軌道,軌道傾斜角55度

ブロックIIRシリーズ

老朽化した初期の衛星を代替するために開発。原子時計が改良され、ルビジウム原子時計が3つ搭載された。1997年から打ち上げられ、合計12機が運用された。

製造者: ロッキード・マーティン社
姿勢制御方式: 3軸制御
太陽電池: パドル型×2枚
設計寿命: 10年
重量: 2032kg
軌道: 高度20200km円軌道,軌道傾斜角55度

ブロックIIRMシリーズ

IIR衛星を改良し、L1とL2周波数でMコード（軍用）とL2C（民生用）信号を送信可能に。2005年から8機が打ち上げられました。

製造者: ロッキード・マーティン社
姿勢制御方式: 3軸制御
太陽電池: パドル型×2枚
設計寿命: 10年
重量: 2032kg
軌道: 高度20200km円軌道,軌道傾斜角55度

ブロックIIFシリーズ

第2世代4番目のGPS衛星としてボーイング社によって開発されました。長寿命化、多ユーザー対応、L5周波数の利用が特徴です。

製造者: ボーイング社
姿勢制御方式: 3軸制御
太陽電池: パドル型×2枚
設計寿命: 15年
重量: 1545kg
軌道: 高度20200km円軌道,軌道傾斜角55度

ブロックIIIシリーズ

次世代のGPS衛星で、L1Cという新しい民生用信号の送信が予定されています。ガリレオや準天頂衛星システムとの互換性も考慮されています。

製造者: ロッキード・マーティン社
姿勢制御方式: 3軸制御(A2100)
太陽電池: パドル型×2枚(A2100)
軌道: 高度20200km円軌道,軌道傾斜角55度

脚注

[1] ボーイング社の第2世代4番目のGPS衛星に関する情報源。
[2] デルタIVM+(4,2)とアトラスVによる打ち上げに関する情報源。
[3] ブロックIIIシリーズの計画に関する情報源。