GRAFFITI (岡林信康のアルバム)

GRAFFITI

『GRAFFITI』（グラフィティ）は、日本のフォークシンガー、岡林信康が1981年11月21日にインビテーション / ビクターよりリリースしたスタジオ・アルバムです。この作品は、岡林がビクター在籍中に発表した最後のスタジオ録音盤として位置づけられています。

制作に至る背景には、岡林自身の音楽的な大きな葛藤がありました。前作にあたるアルバム『ストーム』で、自身が追求してきた「西洋的なロックのスタイル」が一種の到達点を迎えたと感じていたからです。そのため、『GRAFFITI』の制作にあたっては、これまでの方法論とは異なるアプローチを模索しようとしましたが、同時に「日本の音楽における独自のオリジナリティとは何か」という問いに対する明確な答えを見つけられないまま、制作に取り組みました。

特に、アルバム制作前に再びロンドンを訪れた際に経験した出来事が、その葛藤をさらに深めることになります。そこで偶然出会ったキング・クリムゾンのギタリスト、ロバート・フリップから、初対面にも関わらず「私たち（西洋のバンド）のコピーをするのではなく、あなた自身の、日本のロックを見せてほしい」と直接的な言葉を投げかけられました。この言葉は岡林に強い影響を与え、自己の音楽的なオリジナリティを深く意識し、それを追求しようと試みましたが、その道のりは極めて困難であり、思うようには進みませんでした。

この当時の心境について、岡林自身は「エレキ・バンドで奏でる西洋スタイルの音楽にはもう十分に向き合った」という思いが強くあったとし、それがアルバム制作の初期段階から「既に行き詰まりを感じている」という感覚につながっていたことを後に語っています。本作でバッキングを務めたセンチメンタル・シティ・ロマンスに対して、こうした自身の悩みを打ち明けたところ、「自分が心からやりたいと思うことを素直に表現すれば、それがそのまま独自のオリジナリティになるはずだ」という助言を得たそうです。しかし、当時の岡林にとっては、それはあまりにも単純な答えのように感じられ、すぐに納得できるものではなかったといいます。それでも、本作の制作を通じて、この模索の時期は一つの結末を迎えることになります。

『GRAFFITI』は、岡林信康がビクターで制作した最後のスタジオ・アルバムとなりました。この作品を区切りとして、彼は自己のオリジナリティをさらに深く追求するため、ギター一本を携えて各地を旅する「ベアナックルレヴュー」と称される活動を開始し、その後の「エンヤトット」と呼ばれる新たな音楽スタイルへと繋がっていくことになります。

本作に収録されている楽曲は、すべて岡林信康自身が作詞・作曲、そしてセンチメンタル・シティ・ロマンスと共に編曲を手がけています。アルバムの中で、岡林本人が特に納得できる仕上がりだと述べているのは、Side Aに収められた「マンハッタン」一曲のみであると伝えられています。

収録楽曲は以下の通りです。

Side A
1. ジェット・プレイン (6:12)
2. 蒼ざめた朝 (4:13)
3. マンハッタン (3:22) - 岡林自身が唯一納得した楽曲
Side B
4. ONE BOY (4:11)
5. ロックン・チャンチキ・ロール (3:30)
6. たそがれの20世紀 (4:36)
7. インスタント・ラブ (7:59)
8. 軛を背負いて (7:59)

レコーディングには、唄として岡林信康本人が参加し、演奏はセンチメンタル・シティ・ロマンスが担当しました。

また、『GRAFFITI』は、LP時代に発売された岡林信康のスタジオ・アルバムの中で、特にCD化が遅れた作品としても知られています。1990年代には初期のアルバム群が次々とCD化される中で、本作は約25年以上の時を経てからのCD再リリースとなりました。

本作は、岡林信康が自己の音楽的なルーツと将来の方向性を深く見つめ直し、新たな道へと踏み出す前の、重要な通過点を示す一枚と言えるでしょう。

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