HANS

HANSデバイス：モータースポーツの安全を守る革新技術

HANS（ハンズ）は、頭部と頸部の保護を目的とした四輪車レース用救命デバイスです。正式名称は「Head and Neck Support」（頭部前傾抑制装置）ですが、現在は開発元の商標名として使用されています。国際自動車連盟（FIA）は、ヘルメットや装着アンカー、テザーを含む身体装着デバイス全体を「FHRシステム」（Frontal Head Restraint systems）と呼称し、安全規格を統一しています。

開発の背景

モータースポーツにおいて、クラッシュによる頭部や頸椎の損傷は深刻な問題でした。高速衝突時の慣性により、体がシートベルトで固定されていても頭部が激しく前方に動いてしまい、首への負担が大きくなるためです。この問題を解決するために開発されたのがHANSです。ヘルメットと首を紐で繋ぐことで、頭部の過剰な前傾を防ぎ、頸椎損傷のリスクを低減します。

エアバッグも同様の目的を持つデバイスですが、複雑な機構や不意の作動など、レース環境ではHANSに比べてデメリットが多いとされています。HANSはシンプルで信頼性が高く、頸椎保護にも効果的であるため、モータースポーツにおいて広く採用されています。

HANSの構造と機能

HANSは、ヘルメットと首を支えるサポーターを紐で接続した構造をしています。サポーターは肩から胸部にかけて装着し、シートベルトで固定します。この構造により、衝突時に頭部が大きく動いても、首への負担を軽減することが可能です。

ただし、HANSを使用するには、ヘルメットの装着と5点式以上のシートベルトによる上半身の固定が必須です。そのため、一般の乗用車では使用できません。日本の道路運送車両法では4点式以上のシートベルトの使用が認められていないため、公道でのHANS使用は現実的ではありません。

HANSの歴史と普及

HANSは1980年代後半、ロバート・ハーバード博士によって発明されました。1989年の衝突実験では、頭部への衝撃エネルギーを80%低減することが確認されました。その後、IRL、CART、NASCARなど、多くのレースカテゴリーで採用が進み、2009年にはFIAが傘下の全レースカテゴリーでHANS装着を義務化しました。F1では2003年から、WRCでは2005年から義務化されています。日本でも、2017年からJAF公認サーキットレースの全カテゴリーで義務化されました。

HANSの問題点と改良

HANSは首の動きを制限するため、後方確認が困難になるという問題点がありました。近年では、首の可動範囲を広げたモデルも登場しています。また、初期のHANSは、サポーターの角度やシートベルトとの適合性に問題があり、装着による不快感や怪我の報告もありました。しかし、パッドの追加やオーダーメイド対応など、改良が加えられ、これらの問題は大きく減少しています。

類似品と認証規格

HANSが登場した当初は、様々な類似品が登場しました。代表的なものにハッチェンズ・デバイスがあります。これは、HANSよりもシンプルで装着感が良い反面、安全性に不安が残る面もありました。そのため、現在ではHANSや、SFI Foundationが定める安全基準「SFI スペック38.1」に適合したデバイスが広く使用されています。スペック38.1認証取得デバイスの登場により、HANSの独占状態は崩れ、多様なデバイスが利用可能になりました。価格面でも、安価な製品が登場し、普及が促進されています。

まとめ

HANSは、モータースポーツにおける安全性を飛躍的に向上させた革新的なデバイスです。当初の問題点も改良によって克服され、現在では多くのレースカテゴリーでその使用が義務化されています。今後も、安全性と快適性を両立したデバイスの開発が期待されます。

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