HDR10

HDR10とPQ10：高画質映像の世界を広げるHDR規格

2015年、全米家電協会によって策定されたHDR10（High Dynamic Range 10）は、現在最も広く普及しているHDR（ハイダイナミックレンジ）規格です。HDRとは、従来のSDR（Standard Dynamic Range）映像よりも広いダイナミックレンジ、つまりより明るい輝度とより深い黒レベルを表現できる技術です。HDR10は、よりリアルで自然な映像表現を可能にし、視聴体験を向上させます。

HDR10とほぼ同様の規格にPQ10があります。両者の違いは、HDR10が持つメタデータの有無です。PQ10はメタデータを含まないため、HDR10よりも情報量が少なく、映像の調整に柔軟性が欠けます。

HDR10の技術的詳細

HDR10は、以下の技術仕様によって定義されています。

EOTF (Electro-Optical Transfer Function): SMPTE ST 2084 (Perceptual Quantizer, PQ)。これは、映像信号の輝度レベルとディスプレイの輝度レベルの関係を定義する関数です。PQは人間の知覚特性に合わせた非線形な変換を行うことで、より自然な輝度表現を実現します。
ビット深度: 10ビット。10ビットの色情報を使うことで、より滑らかで精細な色表現が可能です。
原色色度: Rec.2020 (Rec.2100と同等)。広い色空間をカバーすることで、より鮮やかで自然な色を再現できます。
静的メタデータ: SMPTE ST 2086。これは、マスタリングディスプレイ（映像制作で使用されたディスプレイ）の色域や最大輝度などの情報を記述したデータです。ディスプレイはこれらメタデータを参照して、最適な表示設定を行うことができます。MaxFALL（Maximum Frame Average Light Level）とMaxCLL（Maximum Content Light Level）も含まれ、平均輝度と最大輝度に関する情報を提供します。
クロマ・サブサンプリング: 4:2:0 (圧縮映像ソース用)。これは、色情報のサンプリング方法を指し、圧縮映像では一般的に使用されます。
ピーク輝度: 厳密には最大10,000 cd/m²ですが、一般的なHDR10コンテンツは1,000～4,000 cd/m²のピーク輝度でマスタリングされています。
SDRとの後方互換性: HDR10はSDRディスプレイとの後方互換性を持ちません。SDRディスプレイでは、HDR10コンテンツを正しく表示できません。

HDR10のメタデータは静的であるため、シーンごとに変化する映像の輝度や色域を最適に調整することができません。そのため、ディスプレイは全体的な調整を行うことになり、必ずしも制作者の意図通りの映像が再現されるとは限りません。

HDR10と競合規格

HDR10以外にも、ドルビービジョン、HDR10+、HLGなど様々なHDR規格が存在します。

ドルビービジョン: シーンごとの動的メタデータを提供し、より正確な映像表現を可能にします。
HDR10+: HDR10と同様に静的メタデータに加えて動的メタデータも提供し、シーンごとに最適化された表示が可能です。
HLG (Hybrid Log-Gamma): SDRとの後方互換性のあるHDR規格です。

これらの規格はそれぞれ異なる特徴を持つため、用途や機器によって最適な規格が異なります。

HDR10の採用状況

HDR10は、デル、LG、サムスン、シャープ、ソニー、VIZIOなど多くのテレビやモニターメーカーに広く採用されています。ゲーム機では、ソニー・インタラクティブエンタテインメントのPlayStation 4|PlayStation_4、マイクロソフトのXbox One、Apple TVなどもHDR10をサポートしています。Ultra HD Blu-rayなどのコンテンツ配信でも広く利用されています。

まとめ

HDR10は、広く普及し、多くの機器でサポートされている重要なHDR規格です。しかし、静的メタデータのみであるという制約があり、より高度な映像表現を求める場合は、ドルビービジョンやHDR10+などの動的メタデータに対応した規格も検討する必要があります。それぞれの規格の特徴を理解し、最適な選択をすることが重要です。

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