I DO (NOT) LOVE YOU.

キタニタツヤのアルバム『I DO (NOT) LOVE YOU.』は、2018年9月26日にEmo, Alternative & Cool.からリリースされた、彼の音楽キャリアにおける重要な作品です。本作は、彼がボカロP「こんにちは谷田さん」として活動していた時期を経て、シンガーソングライターとしての新たなスタートを切るデビューアルバムに位置づけられます。

アルバムには、ボカロP時代に制作され人気を博した楽曲のセルフカバーバージョンが多数収録されています。「悪魔の踊り方」や「芥の部屋は錆色に沈む」といった楽曲は、キタニタツヤの初期の音楽性を象徴するものであり、彼の独特な世界観が色濃く反映されています。これらの楽曲は、ボカロシーンで培われた彼の才能を示すとともに、シンガーソングライターとしての新たな表現の可能性を追求する上で重要な役割を果たしています。

また、アイドルグループ・Payrin'sに提供した楽曲「それでも僕らの呼吸は止まない」のセルフカバーバージョンも収録されており、提供楽曲をキタニ自身がどのように解釈し、再構築したのかを聴き比べることができます。他者への提供曲をセルフカバーすることで、楽曲の新たな一面を引き出し、自身の音楽性との融合を試みる姿勢が伺えます。

本作の特筆すべき点は、マスタリング以外のすべての作業、すなわちソングライティング、演奏、アレンジメント、プログラミング、ミックスをキタニタツヤ自身が手掛けていることです。これにより、彼の音楽的なビジョンがアルバム全体に一貫して反映され、唯一無二の世界観が創り上げられています。自主制作によって、自身の表現したい音楽を追求し、徹底的にこだわり抜いた作品と言えるでしょう。

収録曲は、ボカロP時代の楽曲を含むため、当初は一貫したコンセプトがあったわけではありませんでした。しかし、キタニタツヤはこれらの楽曲に共通するテーマを見出します。それは、「他人とのコミュニケーションを強く求める自分」と「他者の一切を拒絶したい自分」という、相反する二つの感情が常にせめぎ合っているというものでした。この二面性こそが、アルバム全体のコンセプトとなり、タイトル『I DO (NOT) LOVE YOU.』にも象徴的に表されています。

アルバムを通じて、キタニタツヤは人間関係における複雑な感情や葛藤を描き出し、聴き手に共感と問いかけを与えます。彼の音楽は、単なるエンターテイメントとしてだけでなく、聴き手の内面と向き合い、深く考えさせる力を持っていると言えるでしょう。

クレジット
Words & Music & Arrangement, All Instruments & Programming, Mix：キタニタツヤ
Mastering：yasu(Tinkle-POP)

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