I SHOT ANDY WARHOL

衝撃の事件と、その裏に隠された人生：映画『I SHOT ANDY WARHOL』

1996年、アメリカで公開された映画『I SHOT ANDY WARHOL』（邦題：アンディ・ウォーホルを撃った女）は、20世紀のポップアート界を代表する巨匠アンディ・ウォーホルを銃撃したヴァレリー・ソラナスという女性の生涯を描いた作品です。単なる犯罪記録映画ではなく、ソラナスの複雑な人生、そして彼女が抱えていた社会への怒りや葛藤を深く掘り下げた、見応えのある人間ドラマとなっています。

ヴァレリー・ソラナス：複雑な人生の軌跡

ニュージャージー州で生まれたソラナスは、幼少期に父親からの虐待という辛い経験をしました。しかし、彼女は優秀な頭脳の持ち主で、大学では心理学を専攻。学業にも励んでいましたが、大学時代に自身のレズビアンであることを自覚します。その後、ニューヨークに移り住んだソラナスは、売春をしながら劇作や小説の執筆活動に没頭。アンダーグラウンドな芸術活動にも関わるようになります。

彼女の活動は、常に社会や男性中心の社会構造への批判的な視点が貫かれていました。特に有名なのが、過激なフェミニズムを掲げた“SCUM Manifesto（SCUMはSociety for Cutting Up Menの略、同時に「くず」という意味の英単語でもある）”です。このマニフェストでは、男性社会に対する強い憎悪と、男性の抹殺を訴える過激な主張が展開されています。この過激な主張は、彼女の後の行動に繋がっていく伏線となります。

1968年6月3日：運命の銃撃事件

1968年6月、ソラナスはアンディ・ウォーホルを銃撃します。事件当時、ウォーホルは自身のスタジオ「ザ・ファクトリー」で活動していました。事件の動機は、ウォーホルがソラナスの脚本を盗用したという彼女の主張に端を発していると言われています。ウォーホルは重傷を負いましたが、一命を取り留めました。ソラナスは事件の直後に警察に自首し、逮捕されます。この事件は世界中を震撼させ、アンディ・ウォーホルという巨匠と、その影に潜む狂気と暴力の物語として記憶されました。

映画『I SHOT ANDY WARHOL』：ソラナスの真実

映画『I SHOT ANDY WARHOL』は、この衝撃的な事件と、その裏に隠されたソラナスの複雑な人生を丁寧に描いています。ソラナスを演じるのはリリ・テイラー。彼女は、ソラナスの狂気と、その奥底にある悲しみや怒りを繊細に表現しています。また、アンディ・ウォーホル役のジャレッド・ハリスも、巨匠のカリスマ性と脆さを巧みに演じています。

映画は、ソラナスの少女時代から事件後、裁判に至るまで、彼女の人生を克明に追いかけます。過激なフェミニズム、売春、アンダーグラウンドでの活動、そして、アンディ・ウォーホルとの関係…映画は、これらの要素を丁寧に描き出し、ソラナスという人物像を多角的に提示。彼女の行動の背景にある、社会的な不平等、性的マイノリティとしての苦悩、そして、男性社会への反逆といった複雑な感情を、観客に考えさせる作品となっています。

単なる犯罪映画としてだけでなく、社会問題、フェミニズム、そして人間の心の闇といった様々なテーマを織り交ぜ、多くの視聴者に深い衝撃と感動を与える作品です。1960年代のアメリカ社会と、激動の時代の女性の生き様を垣間見ることができる、重要な映画と言えるでしょう。

もう一度検索