IBM 1620

IBM 1620: 科学技術計算の新たな扉

IBM 1620は、1959年10月21日に発表された低コストの科学技術計算用コンピュータです。約2000台が生産され、1970年11月19日には販売が終了しました。このコンピュータは、後にIBM 1710およびIBM 1720といった工業プロセス制御システムが派生しました。これらは、リアルタイムの工場プロセス制御において信頼性を発揮した初めてのコンピュータです。

低価格の魅力

IBM 1620は、固定ワード長の二進法ではなく、可変ワード長の十進法を利用していました。この設計により、初めてコンピュータに触れる学生にとって非常に魅力的な存在となり、多くの若者がIBM 1620を通じてコンピュータの世界を体験しました。また、このマシンの加算回路はなく、メモリ上の加算テーブルを参照する仕組みだったため、ユーザーの間では冗談交じりに「CADET（足し算すらできない）」と呼ばれることもありました。

アーキテクチャとメモリの特徴

このコンピュータは、可変ワード長の十進 (BCD) コンピュータとして設計され、高い柔軟性を持っていました。メモリは20,000桁から60,000桁の範囲で拡張可能で、最大100,000桁までアドレス指定ができましたが、実際には60,000桁以上のものは製造されませんでした。一度にアクセスできるメモリ量は2桁で、各数字は6ビットで表現され、特定のビットに様々な情報がエンコードされていました。

設計上の課題

IBM 1620は科学技術分野で非常に人気を集めましたが、情報工学者エドガー・ダイクストラは、その設計にいくつかの課題があることを指摘しました。彼が挙げた問題の中には、サブルーチンの処理方法に関する限界や、レコードマークを正しく読み込むことができない点がありました。これにより、プログラミングの自由度が制約され、システムの汎用性に影響を及ぼしました。

ソフトウェアのエコシステム

IBMは、このコンピュータ向けに数多くのソフトウェアを提供しました。代表的なものに、1620 Symbolic Programming System (SPS)やFORTRAN、GOTRANなどがあります。これらのプログラムは、IBM 1620を利用する上で非常に重要な役割を果たしました。また、モニタやオペレーティングシステムも用意されており、ディスクベースのプログラムも運用可能でした。

ハードウェアの革新

IBM 1620の論理回路は、主に抵抗・トランジスタロジック（RTL）を用いており、独自の磁気コアメモリを採用しました。小型の設計が特長であり、印刷基板に収められた多くの回路が「ゲート」と呼ばれる部品に集約されています。これにより、メンテナンス性も高められました。また、主メモリや特定のアクセサリも実装され、全体的なシステムの拡張性が意識される設計となっていました。

実績とその後の影響

このコンピュータはNASAなどの機関でのシミュレーション作業に使用され、宇宙計画の成功を支える重要な役割を果たしました。例えば、ジェミニ計画の際には、宇宙船と目標機の挙動をシミュレーションするために利用されました。そして、その優れた演算性能は他のコンピュータの開発にも多大な影響を及ぼしました。

映画に見るIBM 1620

興味深いことに、IBM 1620のフロントパネルは映画『地球爆破作戦』に登場するコンピュータ「コロッサス」に再利用されるなど、他のメディアにも多く触れられることとなりました。

このように、IBM 1620は単なるコンピュータの枠を超え、科学技術における一大革新をもたらしたシステムとして、今日でも語り継がれています。

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