IBM 801

IBM 801は、1970年代にIBMのトーマス・J・ワトソン研究所で、ジョン・コックの指揮のもと、純粋な研究プロジェクトとして開発されたプロセッサの命令セットアーキテクチャです。このプロジェクトは、既存のIBMマシンの性能向上を目的として始まりました。

研究チームは、コンパイラが生成するコードを静的に分析し、システム/370メインフレーム上でのプログラムの動作を動的にトレースしました。その結果、当時の命令セットのうち、実際にはごく一部の命令が頻繁に使用されていることを発見しました。これは、アセンブリ言語でのプログラミングが主流であった時代から、コンパイラの使用が一般的になったことによる変化でした。

この発見に基づき、研究チームは使用頻度の高い命令のみに絞った命令セットを設計しました。これにより、非常に高速で小型なプロセッサコアの実装が可能になりました。801は、LSIチップとして実装されたマイクロプロセッサではなく、CPUとして実装されました（外部リンクの写真参照）。

完成した801 CPUは、1977年に15MIPSという当時としては非常に高速な動作を実現しました。このCPUは、370メインフレーム用チャネル・コントローラを含むIBMの様々なデバイスに採用され、さらには9370メインフレームのCPUコアとしても使用されるに至りました。

1980年代に入ると、801の開発経験はアメリカプロジェクトに引き継がれ、そこからPOWERアーキテクチャが誕生しました。801は、POWERアーキテクチャを含む、その後のRISCプロセッサに大きな影響を与えた先駆的な存在として広く認識されています。

ジョン・コックは、この801プロジェクトにおける功績が認められ、1987年にチューリング賞を受賞したほか、アメリカ国家科学賞も受賞しています。

801の開発は、単なるハードウェアの進歩だけでなく、ソフトウェアとハードウェアの協調設計の重要性を示したという点でも、コンピュータアーキテクチャの歴史において重要な出来事でした。

脚注

IBM100周年のページには、801の写真が掲載されています。

IBM100周年のページ

外部リンクは、実際のURLに置き換えてください。

もう一度検索