ID野球

ID野球とは

ID野球とは、野村克也氏がヤクルトスワローズの監督時代に提唱した野球理論です。IDはImport dataの略であり、データを重視する姿勢を示しています。

ID野球の概要

ID野球は、監督のチーム作りや選手のプレイにおいて、経験や勘に頼るのではなく、データを活用して科学的に戦略を立てることを目的としています。この理論の根底には、野村氏が南海ホークス時代に同僚であったドン・ブレイザー氏から学んだ「シンキング・ベースボール」の思想がありました。

ヤクルトの捕手であった古田敦也氏は、野村監督から徹底的にデータに基づいた緻密な野球を教え込まれ、「ID野球の申し子」と評されました。古田氏は選手兼任監督に就任した後も、データを駆使した采配を振るっていました。

野村氏がID野球を提唱してから長年が経過した現在でも、プロ野球界ではこの理論が参考にされています。例えば、吉田裕太選手は野村監督の孫弟子として、ID野球を駆使して正捕手を目指していました。また、原辰徳氏が読売ジャイアンツの監督として不調だった時期には、ID野球に基づいてチームを立て直していると評されたこともありました。

ID野球に対する誤解

しかし、1995年から1997年に野村監督の指導を受けた吉井理人氏は、2022年に「ID野球」という言葉が一人歩きし、誤解されていると指摘しています。吉井氏によると、野村監督は配球の優先順位として「ピッチャー優先」「データ優先」「シチュエーション優先」の3つを挙げており、最も重視すべきは「ピッチャー優先」であると説いていたそうです。

しかし、野村監督の真意が正しく理解されないまま、「ID野球」が「キャッチャーがピッチャーにデータ通りの球を投げさせること」という風潮に変わりつつあり、バッターを抑えるためのID野球が、逆にピッチャーを苦しめるケースも多く見られると吉井氏は述べています。

阪神タイガースでの試み

野村監督はヤクルト監督を退任後、1999年に阪神タイガースの監督に就任しましたが、阪神では「ID野球」という言葉は使わず、「野村TOP野球」（Total・Object lesson・Process）をスローガンに掲げました。

まとめ

ID野球は、データに基づいて戦略を立てるという画期的な理論でしたが、その解釈には誤解も生じているようです。データ偏重になることなく、選手の個性や状況に応じた柔軟な判断が重要であると言えるでしょう。

参考文献
野村克也『私の教え子ベストナイン』（光文社、2013年）

関連項目
セイバーメトリクス

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