IGZO

IGZO：次世代ディスプレイ技術の基盤

IGZO（イグゾー）は、[インジウム]、[ガリウム]、[亜鉛]、[酸素]の4元素から構成される物質の略称です。液晶ディスプレイや有機ELディスプレイといった表示デバイスにとどまらず、太陽電池、不揮発性メモリ、紫外線センサーなど、多様な分野への応用が期待されている革新的な材料です。

IGZOの開発と歴史

IGZOの研究開発の歴史は長く、[1985年]]に君塚昇氏による最初の合成成功に端を発します。その後、2004年に東京工業大学の研究グループがアモルファスIGZOを用いた薄膜トランジスタ]を開発し、Nature誌に発表。この画期的な成果は、IGZO研究に大きな弾みをつけました。さらに、2009年には株式会社半導体エネルギー研究所が「c-axis aligned crystal (CAAC) IGZO」を開発するなど、[[技術革新は現在も続いています。

一般的にIGZOといえば、シャープが2012年から開発・販売している液晶ディスプレイのブランドとして広く認知されています。しかし、IGZO自体は商標ではなく、一般名詞です。シャープによる「IGZO」商標登録をめぐっては、科学技術振興機構(JST)との間で訴訟(IGZO事件)が起こり、一部商標の無効が確定しています。これは、商標法における「原材料」の名称に関する重要な判例として知られています。

IGZOの応用製品

IGZO半導体は、シャープが世界で初めて量産化に成功したのち、様々な製品に採用されています。

液晶ディスプレイ

IGZOは、特にスマートフォン向けの液晶ディスプレイに大きなインパクトを与えました。従来のアモルファスシリコン(a-Si) TFT液晶に比べて、リーク電流が非常に小さく、消費電力を大幅に削減できるのが大きな特徴です。また、電子移動度がa-Siの20～50倍も高いため、高速駆動による滑らかな映像表示を実現します。さらに、TFT回路の小型化による高開口率や高精細化にも貢献しています。

当初、スマートフォン用ディスプレイには低温ポリシリコン(LTPS) TFT液晶も普及していましたが、IGZOはLTPSと比較してもリーク電流が1/1000と極めて小さく、量産化が進めば製造コストもa-Siと同程度に抑えられるという大きなメリットがありました。シャープは2012年3月に世界で初めてIGZO液晶ディスプレイの量産を開始し、AQUOS PHONEなど自社製品に採用しました。

しかし、IGZO液晶は安価なa-Siと高精細なLTPS液晶の中間に位置づけられるため、すべてのスマートフォンに広く採用されているわけではありません。また、シャープ以外のメーカーはIGZO技術を積極的にアピールすることは少ないのが現状です。Apple社も初期のiPadにシャープ製のIGZO液晶を採用していましたが、コストの問題で一時供給を停止した経緯があります。

有機ELディスプレイ

IGZOは、大型有機ELディスプレイ(OLED)の製造にも不可欠な技術となっています。特にテレビなどの大型OLEDパネルでは、高速応答が求められるため、酸化物半導体であるIGZOが最適な材料となります。LGは2006年にIGZOを用いたOLEDディスプレイの試作に成功し、2014年には55インチの大型OLEDテレビの出荷を開始。現在、大型OLEDパネルの量産に成功しているのはLGがほぼ独占的な状況です。

IGZOは小型OLEDパネルにおいても、省電力で高精細というメリットを発揮します。シャープは2019年にIGZO技術を用いたスマートフォン用小型OLEDディスプレイの量産を開始し、AQUOS R6など自社製品に採用しています。

量子ドットディスプレイ

サムスンが2022年に発売したQD-OLEDディスプレイにもIGZOが採用されています。

IGZO事件と知財問題

シャープが保有する「IGZO」商標をめぐっては、JSTとの間で訴訟(IGZO事件)が発生しました。特許庁は、一部の指定商品について商標登録を無効としましたが、シャープの上告は棄却されました。この判決は、「IGZO」が商標法上「原材料」の名称に該当すると判断された重要な判例です。

IGZOの未来

IGZOは、その優れた特性と多様な応用可能性から、今後もディスプレイ技術の中核を担う材料として期待されています。さらに、IGZOを上回る性能を持つ新たな物質の開発研究も進められており、今後の発展が注目されます。

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