IPhone (初代)

初代iPhone：革新の原点

初代iPhoneは、Appleが2007年に発売したスマートフォンで、その後のスマートフォン市場に大きな影響を与えました。この項目では、初代iPhone（レトロニム：オリジナルiPhone）に焦点を当て、その開発背景、発売時の状況、特徴的なアクティベーション方法、そしてソフトウェアの進化について詳しく解説します。

開発の背景

Appleの創業者、スティーブ・ジョブズは、タブレット端末のようなデバイスにキーボードやマウスではなく、マルチタッチパネルによる直接入力を採用するというアイデアを温めていました。このアイデアが、サイドプロジェクトとして技術者チームに指示され、試作品やユーザーインターフェースの改良を経て、携帯電話への応用へと発展しました。

2005年に始まった「Project Purple 2」は、AT&T（旧シンギュラー・ワイヤレス）との協力の下、約1億5千万ドルの開発費と30ヶ月以上の歳月をかけて極秘裏に進められました。このプロジェクトは、Motorolaとの協業によるMotorola ROKR E1の失敗を受けて、委員会による設計ではなく、革新的なアイデアを追求する形となりました。

2007年1月9日、サンフランシスコで開催されたMacworld Conference & Expoの基調講演で、スティーブ・ジョブズは初代iPhoneを発表しました。「2年半の間、この日を楽しみにしてきた」と述べ、iPhoneを「タッチ操作のできるワイドスクリーンのiPod」「革命的な携帯電話」「インターネットコミュニケーター」の3つを統合したデバイスであると紹介しました。

発売と初期の反響

2007年6月29日、アメリカでの発売日には、Apple StoreやAT&T直営店の前に発売前から1000人もの行列ができ、多くの店舗で1時間程度で完売となるほどの人気を博しました。PlayStation 3の発売時のように、強盗や銃撃を防ぐために非番の警察官が店舗を警備する事態にまで発展しました。調査によると、アメリカ人の10人に6人が発売前からiPhoneに注目していたとされています。

同年11月にはイギリス、フランス、ドイツでも発売され、2008年春にはアイルランドとオーストリアにも拡大しました。しかし、その他の地域（カナダ、オーストラリア、日本など）では発売されず、後継機種のiPhone 3Gを待つ必要がありました。

リリース後の展開

2007年9月5日には、iPhoneから携帯電話ネットワーク機能を削除したiPod touchが発売され、同時にiPhone 8GBモデルが599ドルから399ドルに値下げされ、4GBモデルは販売終了となりました。iPhoneの販売台数は、発売開始から74日後に100万台を達成しました。値下げに対する多くの苦情を受け、Appleは値下げ前に購入したユーザーにストアクレジットを付与しました。

2008年2月5日には16GBモデルが発売され、3月6日にはiPhone OS 2.0対応アプリケーション製作用SDKが開発者向けにリリースされました。6月9日には後継機種となるiPhone 3Gが発表され、7月11日に出荷が開始されたことで、初代iPhoneは総売上台数6,124,000台で販売を終了しました。

Appleは当初、初代iPhoneを単に「iPhone」と呼んでいましたが、2010年7月のプレスリリース以降は「初代iPhone (the original iPhone)」とも表記するようになりました。

ユニークなアクティベーション

アクティベーション

初代iPhoneの最もユニークな特徴の一つが、そのアクティベーション方法です。初回起動時には、ロック画面に「Activate iPhone, Connect to iTunes」と表示され、iTunesに接続してアクティベーションを完了する必要がありました。ユーザーは、iTunes上でキャリアとの回線契約やApple IDの登録を自ら行う必要がありました。

これまでの携帯電話では、キャリアの店舗でアクティベーションや回線契約を行うのが一般的でしたが、初代iPhoneでは、iPodのようにiPhone本体を購入し、自宅やオフィスのMacまたはPCのiTunes上でアクティベーションとキャリアとの回線契約を行うという、画期的な方法が採用されました。アクティベーションを行わない場合は、緊急電話機能のみが利用可能でした。

キャリアとの回線契約

ユーザーはiTunes上で自ら料金プランを選択し、個人情報を入力してキャリアとの契約を結ぶ必要がありました。ポストペイド（後払い）契約を結ぶ場合は、販売国の住所、クレジットカードまたはデビットカード、そしてアメリカでは社会保障番号が必要でしたが、プリペイド（先払い）契約の場合はこれらの条件は不要でした。そのため、社会保障番号を持たない短期滞在者や旅行者がポストペイド契約を結ぶことは非常に困難でした。

利点とトラブル

このアクティベーション方式の利点は、手順がシンプルであり、ユーザーがiPhoneを手にする前に開封されることなく、工場出荷時の未開封の綺麗な状態で入手できる点にありました。しかし、ユーザーがiTunesで回線契約を行うという前例のない方式は、いくつかのトラブルも引き起こしました。

iPhone本体の購入は誰でも可能であったため、最初からキャリアと契約するつもりのない、SIMアンロックなどの不正改造や転売目的で購入する者も後を絶ちませんでした。このため、Apple StoreではiPhoneの購入を1人2台までに制限しましたが、現金での購入を防ぐためにクレジットカードのみに制限されることになりました。また、アメリカでは、独占キャリアであったAT&TとiTunes上で回線契約を結んだ後、大量の請求書が送付されるという問題も発生しました。

その後、このiTunesでのアクティベーションおよび回線契約方式は初代iPhoneのみで採用され、iPhone 3G以降は、本体購入と同時に契約を行う方式に変更されました。

デザイン

初代iPhoneは、前面にコーニング製の強化ガラスを使用した3.5インチのマルチタッチスクリーンを搭載していました。また、5つの物理的なボタンは、後継機種にも受け継がれています。メタルフレームはクロムメッキ仕上げで、背面はアルミニウムと黒のプラスチック素材で構成されています。これは、金属がセルラーやWi-Fi信号をブロックしないようにするためです。

カメラは背面の左上に搭載され、ヘッドホンソケットは他のモデルとは異なり、ほとんどのヘッドセットと互換性がなく、アダプターを介して接続する必要がありました。

ソフトウェア

初代iPhoneは、Mac OS Xをベースにしたオペレーティングシステム（後にiOSと命名）を搭載していました。Appleは初代iPhoneに対応した主要なソフトウェアを5つリリースしています。現在では初代および3GのiPhoneに対するソフトウェアアップデートは終了していますが、非公認のサードパーティーがAndroidをiPhoneで起動させるためのカスタムファームウェアを作成しています。

ソフトウェアのバージョンアップ

初期のオペレーティングシステムには、ビジュアルボイスメール、マルチタッチジェスチャー、HTMLメール、Safariウェブブラウザ、スレッドテキストメッセージング、YouTubeなどの機能が搭載されていましたが、MMS、アプリケーション、コピー＆ペーストはサポートされていませんでした。これらの機能は、脱獄（ジェイルブレイク）によって使用可能にしようとする動きもありましたが、公式なソフトウェアアップデートを通じて段階的に追加されていきました。

2008年7月11日のOS X iPhone 2.0では、アプリケーション、Microsoft Exchange対応、プッシュメールなどの機能が追加されました。しかし、2009年6月17日のiPhone OS 3.0でコピー＆ペーストや新しいYouTubeの機能が追加された際には、初代iPhoneはサポート対象外となりました。初代iPhoneはiPhone 3Gと同じCPU、RAM、GPUを搭載していましたが、iOS 4にアップデートできなかったため、サードパーティーによってiOS 4/5の機能を移植させるプロジェクトが存在しています。

評価

ニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルは、iPhoneに対して肯定的かつ慎重な評価を与えました。主な批判としては、AT&Tの2.5G EDGEネットワークの遅さと、携帯電話として3Gサービスが利用できない点が指摘されました。

ウォール・ストリート・ジャーナルの技術コラムニスト、ウォルター・モスバーグは、「いくつかの欠点や機能の不足はあるものの、iPhoneはハンドヘルドコンピュータよりもバランスが取れていて美しい」と評しました。また、タイム誌はiPhoneを2007年の「今年の発明品」に選出しました。

オークションでは、4GBストレージモデルの未開封品が日本円で2600万円で落札されたこともあります。

脚注

出典

外部リンク

- iPhone - Technical Specifications - 技術仕様（英語）

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