IRAS 00500+6713

IRAS 00500+6713：白色矮星の合体によって誕生した特異な天体

IRAS 00500+6713は、カシオペヤ座の方向に約8,000光年離れた場所に位置する、非常に珍しい天体です。この天体は、2つの白色矮星が合体して形成されたと考えられており、その特異な性質から、天文学的な注目を集めています。

物理的特徴

IRAS 00500+6713は、高温のガスと塵で構成された星雲と、その中心にある超高温・高密度の星で構成されています。中心星は、太陽の1.5倍以上の質量を持つ「超チャンドラセカール質量天体」と考えられており、これは白色矮星の質量限界とされるチャンドラセカール限界を超えていることを意味します。このため、中心星は非常に不安定な状態にあり、今後数千年以内に崩壊し、光と高エネルギーを伴う突発現象を起こして中性子星になると予測されています。

2017年の観測では、この天体のスペクトルがウォルフ・ライエ星に類似していることが示されました。しかし、詳細な観測により、その光度が典型的なウォルフ・ライエ星よりもはるかに暗く、惑星状星雲の中心星に近い[WO]型星であることが判明しました。表面温度は約20万Kという超高温で、表面からは光速の30%を超える秒速16,000キロメートルもの高速で物質が噴き出しています。この高速の星風は、天体の急速な自転と強い磁場によって加速されていると考えられています。また、この天体と星雲からは水素とヘリウムがほとんど検出されず、これらの特徴は、2つの炭素・酸素白色矮星が合体して生じる超チャンドラセカール限界質量天体の特徴と一致しています。

2020年のX線観測では、中心星と星雲の両方から大量のネオン、マグネシウム、ケイ素、硫黄が検出されました。これにより、この天体が炭素・酸素白色矮星と酸素・ネオン白色矮星の合体によって形成された可能性が示唆されました。さらに、この合体の際に炭素核融合が起こり、Iax型超新星爆発を起こした可能性も指摘されています。

超新星SN 1181との関連性

2021年には、この天体の形成に関わった白色矮星の衝突合体が、過去に観測された超新星SN 1181であるとする説が提唱されました。SN 1181は、1181年に土星と同程度の明るさで観測された記録が日本や中国に残っている超新星です。これまで、超新星爆発を起こした天体が特定されていませんでしたが、IRAS 00500+6713の星雲の膨張速度を分析した結果、その爆発時期が770年から1270年前と推定されました。また、SN 1181の明るさや減光速度から、この超新星がIa型ではなくIax型であったと考えられ、IRAS 00500+6713が過去にIax型超新星爆発を起こした残骸であるという結論に至りました。

名称について

IRAS 00500+6713という名称は、赤外線天文衛星IRASの観測データに基づいて作られた「IRAS点源カタログ」に記録されたものです。研究者たちは、この天体の星雲を「Pa 30」、中心星を「Parker's star」と呼んでいます。また、中心星は2MASSの観測データから「J005311」とも呼ばれます。


このように、IRAS 00500+6713は、白色矮星の合体という稀な現象によって誕生した特異な天体であり、その観測は、宇宙における星の進化や超新星爆発のメカニズムを解明する上で重要な情報を提供しています。

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