IRMX

iRMX（Intel Real-time Multitasking eXecutive）とは

iRMXは、1970年代後半に米国インテル社が開発・販売した、intel製8080, 8086, 80286, 80386プロセッサ向けのリアルタイムオペレーティングシステム（RTOS）です。当初はMULTIBUS規格の産業用コンピュータで利用されるリアルタイムマルチタスクOSとして発展しましたが、インテル製x86 CPUを搭載したPCが産業用にも普及するにつれて、MS-DOSやWindowsと連携するDOSRMX、iRMX for Windowsが登場しました。そして、仮想化技術を用いて現代のINtimeへと進化を遂げました。

iRMXの特徴

1. Intelアーキテクチャ専用: iRMXはintel製CPU用に開発されたため、intelおよび互換CPUでのみ動作します。
2. スタンドアロンOS: iRMXは独自のファイルシステム（iRMXフォーマット）を持つスタンドアロンOSでした。MS-DOSやUNIXよりも先に登場したため、これらのファイルシステムとは互換性がありませんでした。しかし、後のDOSRMXやiRMX for Windows、INtimeではMS-DOSやWindowsのファイルシステムが利用できるよう改善されました。
3. キャラクターベースのコンソール: キーボードとディスプレイを使ったコンソールはキャラクターベースで、日本語の表示や入力ができませんでした。しかし、DOSRMXやiRMX for Windows、INtimeではMS-DOSやWindowsとの協調動作により日本語の入出力が可能となりました。
4. メモリ空間: 32ビット版のiRMXIIIでは、最大4GBのメモリ空間が利用可能です。
5. ハードウェア割り込み: ハードウェア割り込み機能が利用可能です。
6. マルチタスク: アプリケーションプログラムは、マルチジョブ（マルチプロセス）、マルチタスク（マルチスレッド）方式で動作し、プリエンプティブなタスク優先度管理が可能です。
7. タスク管理: 最大約700のタスクを登録でき、256レベルの優先度によるスケジューリングが可能です。
8. 開発言語: 当初はintel製のiC-386, PLM-386, FORTRANM-386, ASM-386が使用されていましたが、現在は販売・サポートが終了しています。iRMXカーネルをベースとするINtimeでは、Visual StudioのC/C++言語が使用できます。

iRMXの歴史

1. 初期の状況: 1970年代は、コンピュータの種類が少なく、IBMのメインフレームやDECのPDP11などが利用されていました。シングルタスクOSであるUnixやCP/M、MS-DOSすら存在しない時代でした。インテルは、最初の8ビットマイクロプロセッサー8080向けにリアルタイムマルチタスクOSを製品化したのがiRMXの始まりです。
2. バージョンアップ: その後、8086CPU、80286CPU、32ビットの80386CPUの登場に合わせて、iRMX86、iRMX286, iRMX386とバージョンアップしました。iRMX386は後にiRMXIIIと名称変更されました。
3. 利用分野: iRMXは、主にMULTIBUSシステムで使用され、リアルタイム性と信頼性が求められる製鉄プラントや発電設備の制御用コンピュータのRTOSとして採用されました。
4. SEIKO 9500: 1990年初頭には、8086用のiRMX86が株式会社精工舎の業務用コンピュータSEIKO 9500のマルチタスクOSとして採用されました。
5. PCの普及: intelのx86 CPUがIBM PCに使われるようになり、PCが主流となったことで、産業界でも安価で調達しやすいPCを多用するようになり、産業用PC(IPC)という製品ジャンルが生まれました。
6. DOSRMX: 1990年頃、インテルはPCで動作するiRMXとして、ハードウェアマルチタスク機能を使ったマルチOSシステム「DOSRMX」をリリースしました。これにより、PCハードウェアでリアルタイム機能とMS-DOSを同時に利用できるようになりました。さらに、DOSRMX上でWindows3.1も動作させることができました。
7. dosRMX-98/winRMX-98: 1992年、マイクロネットはNEC製のPC-9801で動作するdosRMX-98、winRMX-98を米国intel社と共同開発しました。その後、PC/AT互換機用のnetRXMも共同開発しました。
8. RadiSys社への移管: 1997年、intel社はiRMXのビジネスとライセンスを米国RadiSys社に移管しました。
9. INtime: 1999年、Windows NTとiRMXIIIカーネルが同時に動作するINtimeを開発し、V1.0をリリースしました。
10. TenAsys社への移管: 2000年、RadiSys社はiRMXエンジニアとiRMXのビジネスをTenAsys社（オレゴン州）に移管しました。株式会社マイクロネットが日本を含むアジア地区の総代理店となりました。
11. INtime2.1: 2001年、INtime2.1をリリースしました。
12. iRMX for Windows (iRFW): 2004年、オリジナルのiRMXの機能やインタフェースを維持し、Windows NTと協調動作するiRMX for Windows(iRFW)をリリースしました。iRFWは、従来のC-386、PLM-386、FORTRAN-386、ASM-386などの開発言語に対応し、独自のファイルドライバや16ビットセグメントアドレッシング機能も搭載していました。現在は販売されていません。
13. Distributed RTOS (dRTOS): 2015年頃、PCハードウェアでiRMXIIIカーネルが単独動作する「Distributed RTOS (dRTOS)」をリリースしました。
14. 最新CPUへの対応: 2000年から2022年の間に、インテルの最新CPUへの対応や、Visual Studioのバージョンアップ、フィールドバス対応などが行われました。
15. INtime V7: 2023年、最新のintel CPUに対応したINtime V7をリリースしました。

脚注

参考文献

「ASCII 1983年2月号」第7巻第2号、株式会社アスキー出版、1983年2月1日。

外部リンク

TenAsys（英語）
株式会社マイクロネット
株式会社マイクロネット－INtime/iRFWの歴史

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